第37章 面白いもの
「どこに行く」
『射撃場。最近撃つことないんだもん、腕訛っちゃう』
「……そうかよ」
『そんな長い時間やるわけじゃないから』
不機嫌そうなジンにそう言って部屋を出て射撃場へ向かった。
扉を開けると銃声が聞こえた。誰かいるんだな……誰だ?チラッと覗いてみると、見慣れた赤茶色の髪。視線に気づいたのか、彼女が振り返った。
『珍しいね、シェリー。気分転換?』
「そんなところ。ずっと缶詰め状態なんだもの」
『大変だね……にしても結構上手くなったじゃない』
「そう?」
『これだけ当たりが良ければ十分よ。あくまでも貴女が銃を使うのは護身のためなんだから』
シェリーに誰かを傷つけるような真似はさせない。そうなる前に私が守るんだから。
「……それもそうね。ねえ、この後時間ある?」
『あるけど……』
「それなら後でいいからラボに顔出してくれない?見せたいものがあるの。それに話したいことも増えたし」
『わかった。30分くらいで行くね』
「待ってるわ。じゃあまた後で」
片付けをして出ていくシェリーの背を見送って、私も銃を構えた。左手は一時期集中的に練習したけど、そもそも撃つことが少ない分以前より命中率が落ちてる。右手の命中率は変わらず。でも、間が長くなった気がする。これはまたしばらく通わないとなぁ……。
本当は1時間くらいやるつもりだったけど、シェリーと話したいし、何より見せたいものが何なのかが気になって早々に切り上げた。
「あら、早かったのね……座ってて、紅茶入れるわ」
パソコンの前に座っていたシェリーが立ち上がった。デスクの上にはいつ撮ったのか、明美との写真が。
『これ、いつ撮ったの?』
「え?ああ、この間会った時。お姉ちゃんとの写真1枚もないから」
『そうなんだ』
「……亜夜姉とも撮れたらいいのに」
『そうしたい気持ちはあるんだけどね』
目の前に紅茶の入ったカップが置かれた。香りを吸い込んでそっと口をつけた。
『それで、見せたいものって?』
「薬のマウス実験の結果なんだけどね……」
『薬?』
「そう。聞いたことないかしら、APTX4869って」
『えっと……毒物反応が出ないってやつ?』
「元々はそんな薬じゃないわ。そもそもデータが完全じゃないからまだ未完成だし」
『未完成?普通に使ってるって聞いたけど……』