第36章 諦めませんから
『……わかった』
「ありがとうございます。それじゃあ帰りましょうか」
車が走り出す。本当にこれでいいのか、なんて考えを頭の外へ追い出すように流れていく風景を眺めた。
「寝ててもいいですよ。ついたら起こします」
『……いい。起きてる』
そういったくせに、次に目を開いた時には見慣れた景色が広がっていた。
「もうすぐつきますよ」
『ん……あ、荷物……』
「荷物?何のですか?」
『貴方の部屋にいる時に買ってくれたやつ……持って帰る』
「置いたままでいいですよ」
『よくない』
「……どうしてもと言うならワンセットだけにしてくださいね」
『なんでよ、何回も通わないといけないじゃない』
「そうして欲しいから言ってるんです」
赤信号で車が止まって、バーボンの視線がチラリと向けられる。
「貴女を誘う口実にしたいんです」
『誘うって……』
「だから置いたままにしてください」
再度車が動き出して数分後にはアジトの駐車場にいた。バーボンがトランクからライフルのバッグや取引した物を下ろしてくれたのでそれを手に取った。
『長時間運転してくれたし疲れてるでしょ?ここまででいいよ。これ、そんなに重くないし。じゃお疲れ様、気をつけて帰ってね』
そう言ってアジト出入口に向かおうとしたら手を掴まれ引き寄せられる。体の距離が近くなってできる限り身を引いた。
『……ここでは駄目』
「残念です……では、次に会えるのを楽しみにしてます」
私の服のポケットに先程の口紅がスっと入れられる。そしてそのまま車に乗り込んで走り去っていった。
取引した物を預けて、自室に戻るとこれまたかなり機嫌の悪いジン。
「……随分楽しんできたようだな」
『ちょっとくらいいいでしょ。遠出なんてあんまりしないんだから』
着替えは洗濯機に放り込んで、ライフルは定位置に保管。そしてシャワー……
「まだ待たせるつもりか」
『まだって……盛りすぎ』
「うるせえ」
『っ……あ、ねえ……』
ジンの手が太ももから腰にかけてをゆっくり撫でる。
「抱かせろ」
『シャワー浴びてから……っ!』
「チッ……仕方ねえな……」
あれ、今日は引くんだ……なんて思ったのは一瞬。
「シャワー浴びながらすりゃ同じだろ」
『全然違うっ!』
抵抗なんてろくにできず……流されてしまう自分に呆れた。