第36章 諦めませんから
バーボンside―
「何やってんだ僕は……」
荷物を置いて早々ベッドに倒れ込んだ。
思った以上に精神がすり減ってるらしい。それは覚悟していたことだし、少しでも油断すれば命を落とす。それはわかってる。素性がバレないように常に気を張っている。だが、どうにも彼女の前ではそれが若干緩んでしまうようだ。
彼女がジンの元へ戻ったタイミングが良くなかった。謝罪のメールは来たもののそれに返信する気にもなれず、その間放置していた。
気持ちが不安定だった。だから、昨日久々に彼女に会って溜め込んでいた諸々が溢れかけたんだと思う。
こんな予定ではなかったのだ。組織用の服が必要だったのは事実だが、東京に戻ってからでも買いに行けた。それなのにわざわざ彼女を付き合わせたり。
昨日、キスを拒まれた時本当にショックだった。たとえ、ジンとの関係が修復されたところで受け入れてもらえると思っていたから。それを隠すためにさっさと寝入ったフリをした。その後、彼女が寝たのを確認してあの状況を作り出すために策を練った。
結果としてキスは許してもらえたようだが……望まない限り手を出さない、それに自分は耐えられるだろうか。
「本気になっちゃ駄目だろ……」
頭を抑えて呟いた。
本当に、どうしようもないくらい彼女……亜夜のことを好いている。幼い頃、あの先生に寄せた気持ちと同じものを彼女に抱いてる。
そもそも立つ位置が違うことはわかってる。この先、彼女と共に歩いて行ける未来が来るなんて、そんな希望を持つことが間違いであることも。諦めない、なんて立場を忘れるようなそんな言葉は言うべきではなかったのに。
このままじゃ駄目だ。起き上がりながら思考を追い出すように頭を振った。そして、新しく買った服のタグを切っていく。
ネクタイは無地のボーダー柄の2本……どうしたものか。やっぱり1つでよかったか?一緒に出てきたネクタイピンはゴールドのシンプルなもの。
ボーダー柄の方は探偵業で必要な時に使おう。元々そのつもりだし、本来の姿の時には使わない。気持ちの切り替えをするためにも。
無地の方とネクタイピンは別の袋に入れて、クローゼットの奥にしまい込んだ。もし、彼女がこの部屋に来た時に見つからないよう隠すようにして。
これを使う時はこの組織が壊滅するその日だけ。いつか必ず来る、全てが終わる時だけだ。