第36章 諦めませんから
翌日、セットしたアラームが鳴るより早く目を覚ました。
「おはようございます。早いですね」
体を起こすとバーボンの声が聞こえた。既に着替えを済ませ、何故か腕立て伏せの最中。
『……朝から元気だね』
「まあ……昨日も穏便に終わりすぎて体力の行き場がないので」
バーボンは立ち上がってペットボトルの蓋を開けた。それを視界の端に映しながらバスローブの紐を解いた。
「もう少し恥じらいを持つべきでは?」
『何回も見てるでしょ、今更じゃない』
「……隠してください。抱いてもいいなら強要はしませんけど」
『……あっちで着替えてくる』
「そうですか、残念」
お互いに姿が見えない所へ移動して、改めてバスローブの紐を解いた。
『ああ……この体見るのは嫌だよね』
鏡に映ったのは、はだけたバスローブの間から見えるたくさんのキスマークが散った体。それを見て無神経過ぎたかなと反省。
着替えを済ませバーボンの元へ戻ると、何やら熱心にスマホを見ている。私に気づいたのか顔をあげた。
「どこか行きたい所ありますか?」
『……え?』
「特にないならいいんですけど……時間もありますし、せっかく遠くまで来たのに何もしないで帰るのは勿体ないな、と思って」
『早く帰りたいんじゃなかったの?』
「否定はできませんけど……やっぱり少しでも長く貴女と一緒に居たいと思ったので」
駄目ですか?とでも言うように微笑みながら、首を横に傾げる。年上とは思えない可愛らしい仕草と、いろいろが積み重なった罪悪感があって受け入れる他なかった。
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「結構広いですね」
『……そうだね』
着いたのは巨大なショッピングモール。東京にも似たような場所があるけど、入っている店の名前は馴染みのないものが多い。思ったより楽しめそうだ。平日で開店から間もないのに多くの人が行き交ってる。
「見たいお店ありますか?」
『うーん、ブラブラしながら気になったところ見る』
「わかりました……それじゃ」
そう言って左手を差し出される。
「……もしかしたらこれが最後かもしれないでしょう?」
そんなこと言われたら繋ぐ以外になくて、右手をその手に重ねた。握られた手に力がこもった。
「まあ、最後にする気なんてありませんけど」
『……じゃあ離して』
「駄目です」