第36章 諦めませんから
「あれ、違いましたか?」
『えっと……恋人になったわけじゃない……かな』
「お互いに同じ気持ちではないんですか?」
『たぶんそうなんだけど……』
「なら、どういった関係で?セフレですか?」
『セフレ……も違う気がする』
なんと言うべきなのだろう……ジンと私の関係は。セフレってほど安い関係じゃないと思うし、かといって恋人もなんか違う。考えを持って巡らせても答えが出ない。それを見かねてかバーボンが口を開いた。
「そんなに悩まなくても……全てに名前がないといけないわけではないですから」
『……うん』
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取引は無事に終わった。帰ろうと思えば帰れる時間だけど、ここに来るまでも結構時間がかかったし、バーボンに長時間運転させるのも気が引ける。だから、一泊していくことにした。別々のチェックインだと面倒なのでツインルーム。
「報告終わりましたよ」
『ん、ありがと』
私はちゃっちゃとシャワーを浴び終えて、ライフルの手入れ中。今回出番はなかったけど、最近ちゃんと見れてなかったしこういう時じゃないとゆっくりできないし。
「それ、撃つ時どんな感じなんですか?」
『あれ、撃ったことないの?』
「ええ……触らせてもらったことはありますけど」
『……そっか』
バーボンの声に少しの悲しみと怒りを感じた。スコッチのことを思い出したんだろう……きっとライのことも。
『その時の状況にもよるけど、神経使うかな……拳銃みたいに小回りは効かないし』
「へえ……」
『機会があるなら練習してみたら?でも貴方、待てができなそう』
「……そんなことありませんよ。待つのは得意です」
『そう?常に駆け回ってるイメージなんだけど』
「ずいぶんな言われようですね」
『そう?気に触ったならごめん』
「ええ、ほんの少しだけ」
手入れを終えたライフルをバッグに仕舞う。顔をあげるとすぐ近くにバーボンがいて、私の顎に指を添えた。そしてそっと向きを変えられた。
「今、この状況で貴女のその格好を見て我慢しているこっちの身にもなって欲しいものです」
『えっ……と……』
「ジンとは恋人ではないんでしょう?」
『……たぶん』
顔がどんどん近づいていく。
「前に言いましたよね、少しでも可能性があるならって。僕は貴女のこと、諦めませんから」