第36章 諦めませんから
『……本当にごめん』
「気にしなくていいですよ。誰にだってあることですから」
目が覚めたのは約束の時間の30分前。荷物の準備をしておけばギリギリ間に合ったのに……バーボンにちょっと遅れてもいいよってメールしたら、もう着きましたって返信が来たから慌てて電話で謝罪。
『あと15分で行く』
「あまり慌てなくても……」
『15分で行く』
「……わかりました」
電話を切って、急いで身支度を整える。ライフルって必要……?考えてる暇ないや、持っていこう。
「そんな急ぐ必要ねえだろ」
『誰のせいよ』
「お前だって乗り気だったじゃねえか」
『……うるさい』
よし、最低限必要な物は持った。困ったらその都度買おう。
『じゃあ、行ってくる』
「早めに帰ってこい」
『努力はする。あ、時間やばい……』
「ちょっと待て」
『もう何……んっ』
腕を引かれて軽くキスされる。雑に整えた髪をジンの手がくしゃっと撫でた。
「……これだけだ」
『え……うん。それじゃ……』
ボーッとしたまま部屋を出た。もっとしたくなるから我慢したのに……もう。
『あ、時間!』
荷物を掴んで駐車場まで全速力。通路の扉を勢いよく開ければ、バーボンは車の外で待っててくれた。本当に申し訳ない……。
「大丈夫ですか?」
『はぁ、はぁ……なんとか……』
「それじゃ行きましょう」
荷物はトランクへ。そしてバーボンの車の助手席に乗り込んだ。ミラーに映る自分は酷い格好。
「髪の毛、ぐしゃぐしゃですよ」
『……うん、後でなおす』
そう答えると車内にはエンジンの音だけが響く。なんとなく空気が気まずい。その原因を作ってしまったのは私なんだけど。
『あの……本当にごめん』
「気にしてませんよ。寝坊なんて誰だってします」
『それのこともだけど……その、巻き込んじゃったことちゃんと謝ってなかったから……』
「……」
『迷惑かけるだけかけて、何も返せてないし……本当にごめんなさい』
バーボンは何も言わない。表情も変わらないから怒ってるのかどうかもわからない。これから任務だから雰囲気を悪くしたくないけど、謝らないままではいられないし。
「……仲直りできたんですか?」
『うん』
「気持ちもちゃんと伝えましたか?」
『うん』
「それでは晴れて恋人同士ですね」
恋人……なのか?