第34章 お前以外に
ハッとして目を開いた。手を動かしたけど、掴まれてるから大して動かない。唇を重ねたまま、ジンと目が合った。でも、すぐに逸らされて間を割って舌が入り込んできた。
……ジンのキスって、こんな感じだったっけ?
ジンとキスすること自体が2ヶ月ぶり。その間、バーボンと何度もしたせいで感覚がズレてるのか……深いけどこんなに優しいキス、今までされてきたっけ?もっと荒々しかった気がする……長いのは相変わらずだけど。
苦しくなってきて、辛うじて動かせる指先でジンの手に何回か触れた。そうするとやっと唇が離れていく。間を繋いだ銀の糸は、すぐに切れた。
「……全部、お前の勘違いだな」
『勘違い……?だって、本当に……』
「夢の中で言ったこと、一言一句欠けないで寝言になると思うか?」
『……そうは思わないけど』
「だいたい、なんでシェリーにそんなこと言わなきゃならねえ」
『だってずっと通ってたじゃない』
「研究員の選別をさせてただけだ。それ以外になにもねえ」
『……じゃあ、誰に言ったのよ』
「ったく……まだわからねえか」
『わかると思う?さっき殺されかけたんですけど?』
「それは……その、悪かった……」
『謝るってことは、納得できる理由があるの?』
「……言ったろ」
『意識飛びかけてたので覚えてません』
「クソっ……」
何か言われたのは覚えてるけど、その内容は入ってこなかったし、悪いの私じゃないでしょ。
それより……こんなにしどろもどろで歯切れの悪いジン、初めて見るかも。前までだったらいじったりしたけど、今それを指摘したら何されるかわかったもんじゃない。なので、心の奥にそっとしまうことにした。
『で、なんて言ったのよ』
「……」
『もう、完璧に同じこと言えなんて頼んでないよ。だいたい同じニュアンスならそれでいいから』
「チッ……あー、その、なんだ……奪われるくらいならって……そうすりゃもう永遠に逃げられねえ……と思ったんだが……」
『ふふっ……』
顔を逸らされたからどんな表情を浮かべているのかはわからないけど、ジンらしくなくて笑いが漏れた。
「……笑ってんじゃねえ」
『ごめん……ふふふっ……』
「おい」
『ごめんってば。首を締められたことに関しては理解した。じゃあ……愛してるって言った相手は誰?』
「てめぇ……後で覚えとけよ」