第34章 お前以外に
ジンは帽子を取って、コートを脱いだ。
『えっ、まって、早っ……』
「うるせえ」
『まだ話の途中でしょ?!』
「いい加減にしろ」
そう言うとジンが覆いかぶさってくる。顔が近くて、少し動いたら鼻先が触れそう。
「……お前以外にそんなこと言うわけねえだろ」
ジンの指が私の前髪を梳いていく。その表情は、見たことがないくらいに柔らかい。
『……今まで何人の女にそんなこと言ってきたんだか』
「言ったことねえよ……お前だけだ」
『それは嘘……』
「嘘じゃねえよ」
髪を梳いていた手が頬に触れて、ゆっくりと首の方へ下がっていく。
「お前以外に言ったことはねえし、言いたいとも思わねえ」
顔から火が出るんじゃないかってくらい熱い。心臓の音もジンに聞こえるんじゃないかってくらいドクンドクンと早鐘を打っている。
「……お前が俺から離れるくらいなら殺してやる。いや、手足の骨を折った方がいいか?どちらにしても二度と日の目を見ることはねえ」
『……』
ジンなら本気でやりかねないことを知っているから言葉なんて出てこなくて、すうっと背筋を冷たいものが通った。それを察したのか、ジンがニヤッと笑った。
「諦めろ……もうお前の逃げる場所はどこにもねえよ」
そして、先程とは打って変わって荒々しいキスで口を塞がれた。舌が絡んで、吸われて……上の方を舐められる感覚は久しぶりで、体中にゾクゾクしたものが走る。しかも長いし。
やっと口が離れた。しばらくしないと体は忘れるんだなぁ……前までは平気だったのに、今は息が切れる。
ジンの顔が耳元に寄せられた。
「……ここまで言っても、まだ忘れるつもりか?」
掠れた声でそう問われた。今この状況で私が出せる答えなんてひとつしかない。それをわかっていながら聞いてくるあたり、本当に意地悪だと思う。
『とりあえず……今はやめとく』
「……そうかよ」
ジンが体を離していく。あれ?と思って視線で追うと、ジンが上の服を脱ぎ捨てたところだった。
「今後そんな気が起きねえように、しつけてやらねえとな?」
……言葉のチョイスを間違えたかも。
起き上がれるわけもなく、私の両手をジンの片手が押さえつけた。もう片方の手がバスローブの紐をほどいていく。
「楽しもうぜ……亜夜」
ああ、もう……こういうとこ、本当にズルい。