第34章 お前以外に
「忘れる?」
『そう。ちゃんと気持ちに区切りつけないと、後々もっと辛くなると思ったから』
「……」
『バーボンは名前で呼んでくれるし、ちゃんと言ってくれる。好きとか、可愛いとか。それが本心なのか嘘なのかはわからないけど、それでも嬉しいから。だから……バーボンを好きになれたらいいかなって』
「……そんな関係望まねえって言ったよな?」
『望んでなんかいない。恋人になりたいわけじゃない。でも、伝えあえる関係になったっていいじゃない。私だって言葉に価値なんてないと思ってたけど、実際に伝えられるとすごく嬉しいの』
ジンは短くなったタバコを灰皿に押し付け、すぐに新しいものに火をつけた。ゆっくり煙を吐き出しながら言う。
「……そう簡単にいくわけねえだろ」
『そうかもね。まだどこかで期待してる。でも、あんなの聞いて何もないって方が信じられない』
「何の話だ」
『……そっか、あれ寝言だったもんね』
それなら自分で言ったことを覚えてなくても不思議じゃないか。でも、夢って潜在意識がどうとかいうし、何も思ってないのにあんなこと言わない……よね。
「寝言なんざ信じる馬鹿がいたんだな」
『……信じるだけの要因がいくつかあったから』
「くだらねえ……が、一応聞いてやる。俺は、何を言った?」
『……言いたくない』
思い出したらまた泣きそう……。ジンはまだ半分くらい残っているタバコを灰皿に押し付け、近づいてきたかと思えばまた、首に手がかけられた。
「言え」
『……本当に覚えてないの?』
「夢なんかすぐ忘れる」
ゆっくりと首にかけられた手に力が入ってくる。また襲ってくる苦しみと、あの時の絶望、不安とか色んな感情がぐちゃぐちゃで右目から涙が零れ、目の端からゆっくり落ちていった。
「……言え」
ジンの視線に耐えられなくて目を閉じた。これで終わっちゃうのかな……なんて考えながらどうにか声を絞り出した。
『っ……シェリー……あ、あい……愛、してるって……』
言い終えて、目を抑えた。ぎゅっと閉じているのに、どんどん涙が零れていく。
「……そんなの信じたのか」
言葉が出てこなくて小さく頷いた。首から手が離れていく。
「……お前以外にそんなこと言うわけねえだろ」
その言葉を理解する間もなく、目を抑えている手を掴んでどかされたかと思うと、そっと唇が重ねられた。