第34章 お前以外に
『かっ、はっ……!げほっ、げほっ!』
遮断されていた空気が一気に入り込んできて思わず咳き込んだ。そして、入ってこなかった分を取り戻すように、大きくゆっくり呼吸した。
『何が……したいの』
ベッドに寝転んだままジンに聞いた。
「……何の説明もしなかったのは、これ以上お前が関わるべきじゃなかったからだ」
『えっ、と……?』
「触らなかったのは……自制できる気がしなかったからだ」
急に伝えられることに頭の中はクエスチョンマークでいっぱい。でも、その言葉の理由に気づくのに、そう時間はかからなかった。
『……聞いてたわね』
私が話したのはウォッカだけだ。それもついさっきのこと。それなのに、会話にあった内容について話すということは……どこかに盗聴器でも付けられてるんだろう。
『どこから聞いてたの』
「……お前が泣き始めた辺りからだな」
『なによ、ほとんど全部じゃない』
「いつ逃げ出すかわからねえだろ」
『自分の命捨ててまで逃げるわけないでしょ』
「フッ……あんなの信じるとは思わなかったがな」
それじゃあ……頭が吹き飛ぶ、というのは嘘?そんな脅しをしてまで私をここに留めておく理由は?
『……本当に意味がわからない』
「俺だってわからねえよ」
ジンはまた新しいタバコに火をつけた。
「気持ちの整理、なんて後付けの理由を誰が信じると思う」
『っ……』
鼓動が速くなっていく。あの日の苦しさが蘇ってくるようで、ジンから目を逸らした。
「本当の理由を話せ」
自分の腕をぎゅっと掴んだ。僅かに体が震えている。ずっと慰めてくれたバーボンの温かさを思い出したいのに、黒に染められた記憶からあの時を呼び起こすことはできない。
「おい……」
『話したら、ここから出してくれる?』
「……出ていってどうする」
『ちゃんと忘れるまでバーボンと一緒にいる』
「ふざけてんじゃねえぞ」
『本気で言ってるよ』
「てめぇ……」
『苦しいんだよ、すごく……でも、その原因をつくってしまったのは私。私が、好きになりすぎたから』
ジンの言葉を待たずに話し始めたけど、また泣きそうになる。
『私が好きって伝えても、同じ言葉を返してくれたことないもんね。それなのに、他の子にはちゃんと伝えてる。それが苦しくて辛い。だから……この気持ちを忘れたら楽かなって』