第34章 お前以外に
やっと異物感のなくなった首をさする。チリッとした痛みを感じ、そこを指でなぞると薄らと残る歯型。
ため息をついてベッドにどかっと腰掛けた。ジンはその場所から動こうとしない。
『バーボンに何もしてないよね』
「……話しただけだ」
『そう……それで、私は何を話せばいいの?』
「……」
『聞きたいこと、聞いて。そしたら答える』
ジンは舌打ちをした。そして、タバコを取り出し火をつける。大きく吸い込み、そして吐き出されていく煙を見ながらジンの言葉を待った。
「……急に出ていった理由は」
『気持ちの整理、かな』
「連絡を断ったのも同じ理由か」
『そうだね、邪魔されたくなかったから』
「……バーボンと一緒にいた理由は」
ただでさえ普段より声がトゲトゲしてるのに、バーボンの名前を出した瞬間それが更に鋭さを増す。
『たまたまだよ。出て行った日大雨に当たって、途方に暮れてたら偶然通りかかったバーボンが拾ってくれたの。最初はホテルに泊まるつもりだったけど、それも面倒になって、そのままお世話になってた』
「あの野郎に抱かれたのか」
『そんなの見ればわかるでしょ』
「なら、抱かれたのはお前の意思か?」
『そう、だね……バーボンから手を出してくることはなかった。全部、私が誘った』
ガツンっと大きな音が部屋に響いた。何かと思えば、ジンが思いっきり灰皿にタバコを押し付けたことによるもので。
「……言い訳のひとつもしねぇのか」
『したところで意味なんてないでしょ?悪いのは全部私なんだから』
こんなこと言いたいわけじゃないのに、口から出る言葉は悪態をついたものばかり。でも、そうでもしないとまた泣いてしまいそうだった。
『もう終わり?』
「……気に入らねぇ」
『気に入らない?』
「……殺しちまえば、もう逃げねえか?」
『は?ぐっ、うっ……!』
ベッドに押し倒されたかと思うと、ジンの両手が私の首を締め上げた。ものすごい力で、引き剥がすことなんてできない。
体内の酸素が徐々に減っていき、ジンの手を引き剥がそうとしていた自分の手はベッドに落ちた。頭の中が白くなっていく。
「他のヤツに渡すくらいならこのまま……そうすれば、永遠に俺のものだろ?」
その言葉を理解する余裕は今の私にはない……もう無理かも。
覚悟を決めたその時、肺に酸素が流れ込んできた。