第34章 お前以外に
『あ、兄貴……』
いつから部屋にいたんだろう……声を聞くまで気配を感じなかった。ジンが発する肌を刺すかのような殺気。機嫌はすこぶる悪いらしい。
「俺からの連絡を無視するとはいい度胸だな、ウォッカ」
「すっ、すいやせん!!」
「てめぇもてめぇで何してやがる」
『……ウォッカが寝てたから起こそうかなぁって』
「マティーニっ……」
『別に隠すことないでしょ。ウォッカだって疲れてたんだろうし、そんな人に寝るななんて言えないよ……普通は』
そう言いながらジンを睨んだ。ジンは大きな舌打ちをする。
「てめぇに指図される筋合いはない」
『指図?ずいぶんな言い草ね』
ついさっきまでジンとちゃんと話そうと思ってたのに……突っかかっていく私も悪いのかもしれないけど、ジンの言い方もよくないと思う。
「てめぇが余計なことしなきゃ、こいつもこうはならなかっただろ」
『なに、悪いのは全部私?自分は何もしてないって?』
「ああ、全く心当たりがねえな」
「お、落ち着いてくだせえ、兄貴……マティーニも」
慌てたようにウォッカが仲裁に入ろうとしてくれるけど、きっとこのままじゃ埒が明かない。
『ごめんウォッカ、2人にしてくれる?』
「え……?」
「おい、勝手に決めてんじゃねえ」
『貴方が話したいのは私とでしょ?だったらいいじゃない。ウォッカ、行っていいよ』
「し、しかし……」
ウォッカが不安げにジンを見る。
「……出てけ」
ジンはウォッカに視線を向けることなくそう言った。
「はい……それでは失礼しやす……」
『ウォッカ、いろいろありがと』
「いえ、お気になさらず……」
去っていく背中が先程より小さく見えた。本当に申し訳ないことしたな。またちゃんと謝ろう。
「……ウォッカと何してた」
『何って……ここに来るように言ったの貴方でしょ?食べ物持ってきてくれて、ちょっと話したら眠くなったから寝た。それだけ』
ジンから目を逸らしながら答えた。
「おい……」
『ねえ、これ外して』
ジンが何か言いかけたけど、それを遮って首輪を指さした。得体の知れない恐怖で冷たくなっている指先を無理矢理動かして。
「あ?」
『貴方がいる間は外してくれるんでしょ?』
ジンは無言のまま手を伸ばしてきた。そして、その手が首輪に触れるとピッと音がして首輪が外れた。