第34章 お前以外に
『ふふっ……』
必死なウォッカの声に思わず笑いが漏れた。
「えっ……えっ?俺、変なこと言いやしたか?」
『ううん、変じゃないよ。ウォッカってジンのこと大好きだよね』
「好き、とは違いやすけど……一生ついて行こうと思ってやす。だから、できることはなんでもしたくて……」
『わかったよ、ちゃんと話すね』
「助かりやす」
『ウォッカも、こんな話聞いてくれてありがと。ジンとか、他の人には言いにくいから』
ウォッカがジンのことをよく知っているからこそ、こんな風に話せたんだろうな……さっきまでの空気がなくなって、気が抜けたのか眠くなってきた。背中越しの体温が、いい感じに眠気を誘っているせいもある。
『ウォッカぁ……ちょっと寝る……』
「それなら退きやすね」
後ろ手にウォッカのスーツの裾を掴んだ。同時にチラッと時計を確認。
『このままでいい……15分くらいしたら起こして……』
「えっ……ちょっと、マティーニ?」
一度目を閉じてしまえば再び開く気にもなれず……ゆっくりと意識が落ちていった。
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「ん……」
ウォッカに声をかけられるより早く目が覚めた。座ったまま寝たせいで下に垂れていた首はぼんやりと痛む。首をさすろうとして手を伸ばしたが、首輪によって触れることはできず。
『えっ』
時計を見れば先程から30分以上経っていた。
『ねえ、ウォッカ……』
そう声をかけたが返事はない。振り返ると大きな背中は規則正しく動いている。正面にまわって顔を覗き込む。そうしてもなんの反応もないし、サングラスのおかげでわかりにくくはあるけど……
『……寝てる、よね?』
顔の前で小さく手を振るけど、これも反応せず。
疲れてたんだろうな……今回の一件で一番ストレスのかかる立場にあるんだろうし。本当に申し訳ないことした。ジンと話してくれ、と言われたけどちゃんと話せるだろうか。もう既に不安しかない。
そんな現実から逃げるように他のことを考える。
『あ……』
ウォッカがサングラス外したところって見たことがない。どんな顔してるんだろ……鋭い目なのか、癒し系なのか。好奇心が抑えきれず、顔を覗き込んだままゆっくりと、サングラスに手を伸ばしていく。
「まだ仕置が足りねぇか?」
その声に私の手は止まり、ウォッカは目を覚ました。