第34章 お前以外に
「え、いや、でも……」
『いいから』
口調を強くすると、ウォッカは恐る恐る横に腰掛けた。それを確認して、私は後ろに回り込み、自分の背中をウォッカの背中に預けた。
「まっ、マティーニ……」
『変な声出さないでよ……ちょっとだけこのままね』
私が体重をかけると諦めたように大人しくなった。背中越しの体温がなんとなく心地良い。
『……ジンにとって私はどんな存在なんだろう』
「……」
『まあ、この状況が答えだよね。こんなもの付けられて……信用できなくなったかな』
首輪にそっと触れた。命を人質に取らなければ逃げると思ったんだろう。だから、こんなものまで用意して……実際、私はこれがなくても逃げなかったとは言いきれないけど。
『私が悪いのはわかってる。勝手に逃げて、連絡もしなかったし。だけど、そこまでしないと気持ちの整理がつかないと思った』
「気持ちの整理……ですかい?」
『そう。ここまで気持ちが大きくなるなんて思いもしなかった……昨日、あんなに酷いことされたのに、ジンのこと、嫌いになれない』
「べ、別に嫌いになる必要なんて……」
『私が我慢できないの……ジンにはもう、別のお気に入りがいるみたいだし』
「そんなわけありやせん。もし、そうだったらここまで手の込んだことするわけがない」
『じゃあ、ウォッカ……貴方自信に置き換えて考えてみて』
「……はい」
あのパーティの日以降のことを順に思い出しながら話し始めた。
『相手は、それまでは普通に触れてくれたのに、ある日を境に軽いスキンシップすらなくなって……説明は一切ないまま、別の異性の元へ通ってる』
「……」
『自分には好きとか、直接的な言葉を言ってくれたことがないくせに、その別の異性にはちゃんと愛を伝えてる。そんな状況になったらどう?』
「それは……」
『私は我慢できなかった。でも、悪いのは私。元からそういう約束だった。あくまで都合のいい、身体だけの関係。そこに、気持ちなんて必要ない。それなのに……』
「そのことについて、兄貴と話は……?」
『……してない』
「それなら、ちゃんと話すべきです。勘違いだって可能性も……」
『もし、勘違いじゃなかった時……私、どうなるかわからない』
「貴女に何かあったら俺が止めやす。マティーニ、兄貴とちゃんと話してください……兄貴には、貴女が必要です」