第34章 お前以外に
どれだけの間泣いていたのか……さすがに涙も止まったし、このベタつく体を洗い流したいし、気持ちを切り替えないと。そう思い、シャワーを浴びることにした。
手首の擦れた跡と、噛み跡に少しだけお湯がしみた。肩とお腹の傷跡よりも、たくさんの噛み跡の方が心をさらに沈ませる。鏡に映る自分の姿が嫌で、さっさと体を流してバスルームを出た。
『……大丈夫か』
首輪……を普通に濡らしてしまったけど、特に問題はないらしい。これが付いている限りどこへも行けない。体を拭いて、使われていないバスローブを羽織る。下着は悩んだ結果付けないことにした。どうせまた性処理に付き合うことになるだろうし。
そうは言っても、服をそのまま散らかしておくわけにもいかず。かき集めて畳んだ。一緒にスマホも拾い上げる。充電こそ減っているけど、問題なく使えそうだ。連絡の通知は一件もなかった。
バーボンに連絡するべきだろうか……昨日のことをちゃんと説明して謝りたい。私の身勝手で彼を巻き込んでしまったのは事実だし、あんなに良くしてくれたのに、それをあだで返すような真似して……私だって最低だ。
すると、ドアをノックする音が。ジンだったらなにもせず入ってくるだろうし……じゃあ誰が?ドアスコープを覗き、そこにいたのは……ウォッカ。
ゆっくりドアを開けた。
『……何?』
声が掠れているのを忘れていた。起きたばかりの時よりはいくらかマシにはなったけど、まだ通常の状態には戻ってない。
「あ、兄貴にマティーニの様子を見に来るようにと……」
『……入っていいよ』
「失礼しやす……」
……服、片付けておいてよかった。私がベッドに座るとウォッカは持っていた袋を差し出してきた。
『何?』
「コンビニのものばかりで申し訳ないんですが……」
それを受け取り、中を見るとパンと飲み物とゼリー。
『……ありがとう。後でもらうね』
食事のことなんて一切頭になかった。こんな状況でお腹も空いていない。
『ごめんね、色々大変だったよね』
「……否定はできやせんが、何か理由があるんでしょう?」
『まあ、ね』
「無理に話してもらう気はありやせんが、話せることなら聞きますよ」
『……自分が甘かった、ってだけのことだよ』
「それは……」
『ねえ、ここ座って』
ウォッカの言葉を遮って、自分の横を叩いた。