第30章 不安
ジンside―
俺の前を歩いて行く2つの背。1人は亜夜で、もう1人はシェリー。シェリーの手は亜夜の腕を掴んで引いていく。
「……おい」
何度呼んでも振り返らず、足も止めず。歩調を早くしても追いつけない。
「止まれ、マティーニ」
『……』
「……亜夜」
『……』
亜夜はどう呼んでも何の反応も見せない。苛立ちが抑えきれなくなる。
「……シェリー」
名前を呼びながらシェリーに向けて拳銃を構える。すると、彼女だけ振り返った。
「何か用かしら?」
「そいつから離れろ」
「あら、どうして?」
「黙って従え、死にてぇか」
「……殺すことなんてできないくせに」
こんな会話をしていても亜夜の顔がこちらに向くことはない。そんな様子に更に苛立ちが募る。
「それに、貴方といるより私と一緒にいた方が、亜夜姉も幸せだと思うわ」
「……あ?」
「だってそうでしょ?本当の気持ちも伝えられない男の傍にいるなんて……亜夜姉が可哀想」
「……」
「こんなに言っても言葉が出ない……それが答えでしょ。行こう、亜夜姉」
再び歩き出した2人。何を言えばいい、どうしたらあいつの足は止まる?
「……亜夜」
『……』
好き、なんかじゃ足りない。俺は……お前の事を……
「……愛、してる」
そう言うとやっと亜夜の足が止まる。そしてゆっくりと振り返って……急に光が差してきて思わず目を瞑った。
目を開くと見慣れた天井が見えた。
「……夢、か?」
いつの間にか寝ていたらしい。夢なんて見るのはいつぶりだろうか。
「……亜夜?」
微かにあいつの香水の匂いがする。戻ってきたのかと思ったが、部屋の中には自分以外の気配がない。
「失礼しやす……あ、お休みでしたか?」
「いや……何の用だ」
「あ、報告が済んだことをお伝えしようと……あと、マティーニからしばらく帰らないと伝えて欲しいと言われて……」
「……帰らねぇ?どういう意味だ?」
「さ、さぁ……俺はてっきり兄貴とマティーニが喧嘩でもしたのかと……」
胸騒ぎがしてあいつに電話をかけた。が、電源が切られていて繋がらない。
「行先は?」
「ホテルに泊まると……でも、歩いて出ていったみたいで……」