第30章 不安
少し冷たい手の温度が気持ちいい。
「熱ありますね。体調はどうですか?」
『……怠いし寒い。ボーッとする』
「あんな雨の中にいたら当たり前です。早く寝て……あ、髪は乾かさないと駄目ですね」
『……いいよ別に』
「余計に体が冷えるでしょう……そこ座っててください」
床に座り込んだ。風邪か……初めてだな。こんなに怠いものなんだ。目を閉じていると背後に気配。と同時にドライヤーの温風。
バーボンの手が頭を撫でて、髪を梳いていく。それがなんとも心地よくて眠くなってくる。しばらく続けて欲しいなんて思ったり。手際がいいのか、割とすぐに乾かし終わった。
「ベッド使ってください。立てますか?」
『うん……』
ゆっくり立ち上がる。ベッドに向かって歩き出そうとすると、グイッと引かれて横抱きにされた。ほんの十数歩の距離なのに。そのままベッドにおろされて布団をかけてくれる。至れり尽くせりだな……。
「寝ててくださいね」
そう言って去っていこうとするバーボンの服を掴んだ。
『……どこ行くの』
「薬と食べれる物を買いに行くんです。さすがに何も食べないのは良くないでしょう?」
『……』
「ほら、離してください」
『……やだ』
「はあ……全く」
バーボンはそう言いながら、ベッドの縁に腰掛けて頭を撫でてくれる。
「……寝るまで傍にいますよ」
『うん……』
一度消えかけていた眠気がまた湧いてきて、目がだんだん閉じていく。
普段の黒い部屋と全然違う明るい部屋。タバコの匂いなんて全くしなくて、布団からする柔軟剤の柔らかい香りに包まれる。いつもと真逆の空間なのに、どこか安心できて落ち着く。
『……優しいね、バーボン』
「貴女が好きだからですよ。誰にでもこんなことしません」
『ふふっ……そっか』
視界の端にうつる金色の短い髪と、優しい声。気分がフワフワする。眠気はもう限界で、でも寝てしまったらバーボンがいなくなっちゃう。
『寝ても……行かないで』
「すぐに帰ってきますよ」
『……ほんと?』
「嘘なんてつきません」
眠りに落ちかけてる頭でぼんやり考える。もし、一緒にいるのが彼なら、もうこんなに苦しい思いをすることもなくなるのだろうか。それなら……
『ねえ……バーボン』
「なんですか?」
『私……貴方のこと好きになりたい』