第30章 不安
『……自由?』
「うん」
『どうだろうね』
そんなの考えたことなかった。もし、あの方の願望が叶って組織が必要なくなる時が来たら……私が存在できる場所なんてなくなるんじゃないか?
『志保は、自由になれたら何をしたいの?』
「普通の生活をしたい。普通に学校に行って、友達と遊んだり買い物したり……人目を気にせずに外を歩きたい」
『そっか』
「亜夜姉は?もし、そうなったら何したい?」
『うーん、なんだろう……』
何を望んでいいのか、何を望むべきなのか……普通がわからない。私みたいな人間が普通に生きていい筈がない。もし、そんな日がくるなら組織が消えると同時に私も……。
「……やりたいことができたら教えてね」
『うん』
何も答えを出せないことを気遣ってか、そう言ってくれた志保。本当に優しい子だなあ……。
『……そろそろ帰ろっか。ちょっと冷えてきたね』
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「ありがとう、少しだったけど楽しかったわ。またどこか行きたい」
『その時は貴女が運転してね』
「……頑張る」
『楽しみにしてる。それじゃ、またね。無理しないように』
シェリーのラボの前で別れて自室へ向かう。次第に足が重くなってきた。ジンは部屋にいるのだろうか。
シェリーの様子からして何かある訳ではないようだけど、どうしても気にしてしまう。でも、いつまでも目を逸らし続けてちゃ駄目だよね。ちゃんと聞こう。
恐る恐る部屋のドアを開けた。タバコの匂いがする。それも結構な量の。なんとなく気配を殺して、足音を立てないように静かに部屋に入る。
ジンはベッドの上で寝ていた。珍しい、疲れてるのかな。そっと近づいて顔を覗き込んだ。目を覚ます感じもなくて、ジンの顔をまじまじと見てしまう。
綺麗な顔してる……そう思ってジンの頬に指を伸ばした。
「……シェリー」
起きたのかと思って慌てて手を引っ込めたけど、どうやら寝言……なのにシェリーって……。
『ジン……』
何の夢見てるの……今すぐ叩き起したい。でも、もしこの後何か言うとしたら……興味と恐怖が入り交じって体が動かない。
『……ねえ』
「……愛、してる」
『え……?』
頭を思い切り殴られたような、目の前が真っ暗になるような……ジンはシェリーの事が……?
頬を涙がつたった。