第30章 不安
「綺麗な所ね」
『そうでしょ?時々来るの』
夕日が沈んでいく水平線はキラキラと輝いている。潮の匂いがふわっと香る。
景色が綺麗で静かな場所。そう言われて1番最初に思いついたのがこの場所だった。以前、バーボンが連れてきてくれた海。さっき、アジト内で会ったせいなのかもしれないけど。
息抜きと称して来ることが度々ある。ただボーッとしてるだけでも、なんとなくスッキリした気がするから。
「……何かあったの?」
『どうして?』
「なんか……顔が暗い気がするから」
やっぱり隠しきれてないのかな。どうしてもジンとシェリーの関係のことを考えてしまう。
『そうかな。でも大したことないよ』
「私には話せない?」
『そういうわけじゃ……』
『亜夜……あ、えっと、マティーニは……」
『いいよ、名前で。でも今だけね』
志保の休暇が終わる前から呼び方を変えるようにしたのだけど、どうしても慣れない部分がある。だから、貴女とか妙に他人行儀になったり、ふとした瞬間に名前で呼んでしまったり。
「うん……亜夜姉は聞いてくれるけど自分から話すこと少ないでしょ?聞けることなら聞きたいし、もし悩みとかあるなら……」
『悩むって程でもないんだけど……原因が自分にあるのはわかってるし』
私が好きになりすぎたのが悪い。身体だけで満足しきれなくて、心まで欲しいだなんて……そうはならないって決めたのに、それが守れなくてその結果、自分をここまで苦しめてる。
「無理に話せとは言わないし、私が解決できるとも思わないけど……話くらいなら聞けるから」
『うん、ありがとう』
志保を見ると、彼女も考えるような顔をしている。
『志保も何かあった?』
「……ちょっと考え事」
『聞いてもいい話?』
「ずるいわ亜夜姉。自分は話してくれないのに」
『それもそうね』
「……でも、聞いて欲しいかも」
『もちろん。可愛い妹の話なら』
「もう、茶化さないでよ」
志保は風になびく髪を耳にかけながら笑う。こういうちょっとした瞬間に可愛いな、なんて思ったり。志保は深く息を吐いて、水平線を眺めながらポツリと言った。
「もしこの先、あの方の願望が叶ったとして……その時、私達はここを抜けて自由になれるのかな」
それは予想もしていなかった内容で、すぐに言葉が出てこなかった。