第30章 不安
一度部屋に戻ってライダースーツに着替える。そして、少し埃を被ったヘルメットを取り出した。
鏡の前で一応確認。髪は結ぶことにする。するとドアが開いてジンが入ってきた。
「……どこに行く」
『シェリーとちょっと息抜き』
「いつ戻る」
『さあ……決めてないけど』
「……チッ」
せっかく抑えかけていたモヤモヤがまた湧いてくる。言いたいことは沢山あるし、聞きたいこともあるのに……何も言葉にできない。
『あ、シェリーがラボでタバコ吸うなって』
「ガキが偉そうに……」
『……そんなに気に入ってるなら来なくていいのに』
「今、なんて言った?」
『別に。それじゃ』
腕を掴まれかけたけど、それを躱してさっさと部屋を出た。こんな気分で行って大丈夫かな……。
「おや、お出かけですか?」
後ろから声がして振り切る。ニコニコと張り付いた笑みは相変わらず。以前ほど嫌な感じはしなくなったけど。
『バーボン、貴方がここにいるのは珍しいわね』
「ええ、ちょっと」
『そう』
「どちらへ行かれるんですか?その格好だとバイクですかね」
『息抜きしようと思って……久々に乗りたいし』
「きっとバイクに乗る姿も様になっているんでしょうね」
『そんなことないわ』
「貴女はどんな姿でも素敵ですよ」
『……こんな所で辞めてくれる?誰が聞いてるかわからないでしょ』
「すみません。でも、思ったことは素直に伝えたいので」
そう言うと、バーボンに右手を取られて手の甲に軽くキスされる。
『ねえ、本当に……』
「口じゃないんだから許してほしいです。機会があれば後ろ乗せてくださいね」
去っていくバーボンの後ろ姿に自然と口角が上がるのを感じた。先程までのモヤモヤはいくらか晴れた気がする。
『あ、急がなきゃ』
シェリーが待ってる。慌てて駐車場までの道を急いだ。
「ねえ、変じゃない?」
『似合ってる。大丈夫よ』バイクのエンジンをかけて跨る。シェリーが後ろに座ったのを確認してヘルメットを被った。
『行きたい所ある?』
「気色が綺麗な所がいい。でも、人気がないほうがいい」
『わかった。せっかくだし、少し遠い所にしよっか』
「うん。楽しみ」
『それじゃ、ちゃんと捕まっててね』
お腹に回されたのシェリーの腕を確認して、アクセルを回した。