第30章 不安
『え……?』
「来る度に結構な量吸ってくから……まあ、灰皿置いてる私も良くないんだけど」
『結構ってどのくらい?』
「うーん、3本以上かな。それを毎回片付けるの私だし」
『……シェリーが言えばいいんじゃないの?』
「何度も言ってるけど聞いてくれない。貴女が言えばたぶん聞いてくれるでしょ?だからお願い」
『……』
3本って……割と長い時間ラボに居座ってるのか……駄目だ、モヤモヤする。
「マティーニ?」
『あ、うん。言っておくね』
射撃場の前についたので、頭の中から嫌な考えをどうにか追い出した。
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『へえ、結構筋いいわね。本当に初めて?』
「うん。ほら、アメリカって銃社会だから見ることは何度かあったし」
『なるほど。それだけ撃てるなら問題なさそうね』
姿勢や構え方等々……教えるとすぐにできる。飲み込みの早さは座学だけに留まらないらしい。
せっかく来たんだし……とシェリーの隣の的を狙って撃ち抜く。右手と左手、それぞれで3発ずつ。常に愛銃は持っているのだけど、最近は本当に使う機会が減った。これもまた平和ボケの原因かな……。
「両手で構えないと駄目なの?」
『無理にそうしろとは言わないけど、反動がキツいと思う。貴女華奢なんだから』
「……マティーニだって細いじゃない」
『私は慣れてるからいいの』
6発全弾、中心を通った的を見て言った。腕は落ちてないようで安心。
『シェリー、1つ約束して』
「約束?何を?」
『今日教えたこと、拳銃を使うのは自分や誰かを守る時だけにしてね。絶対、相手を傷つける為には使わないで』
「いいけど……どうして?」
『お願い、約束ね』
シェリー……志保はまだ普通の世界に戻れる。それは明美も同じ。もし万が一、組織が裁かれる時が来ても手を汚していなければ、罪は軽いかもしれない。2人の運命を、私と同じようにはできない。
『あ、バイク乗ってみた?』
暗い考えを振り切るように、別の話題を持ちかけた。
「まだ。なかなか時間なくて……」
『今から行く?この後の都合は?』
「何もないし、そうする。あ、でも……」
『ん?』
「運転は私じゃなくて……貴女にして欲しい。後ろ乗ってみたい」
『……わかった。じゃあ着替えて、駐車場で待ち合わせね』