第30章 不安
あのパーティの日からしばらく経った。ジンが私の部屋に来ることが減った。来ても何もしないで寝ていくだけ。セックスはおろか、キスすらしてくれない。
嫌われたのかな……それとも別にそういう相手ができたのかな。モヤモヤするけど仕方ない。ジンは私のものじゃないから。
そんなある日、シェリーに拳銃の扱い方を教えろ、という指示があった。今日は任務もないし、彼女の予定を聞きに行こう。そう思って部屋を出た。
シェリーとは彼女の休暇が明けて以降は会えていない。バイクの免許を取ったって連絡が来て以来かも。シェリーのいるラボの前についてドアをノックしようとした。が、ドアは反対側から開けられて身を引いた。
「……何か用か」
『え?あ、うん。シェリーに……』
出てきたのはジンだった。ウォッカの姿はない。そう答えたがそれに対しての返事はなく、そのまま立ち去っていく後ろ姿にモヤモヤが更に膨らんだ。
「亜夜……じゃなくてマティーニ?どうしたの?」
『久しぶりね、シェリー。話があるんだけど、今いいかしら?』
「大丈夫よ。ジンが来て気分削がれちゃったところだし」
『……そっか』
なんでジンがここに来たのか、なんの話をしていたのか……気になって仕方ない。シェリーとそんな関係だなんて思いたくないけど、一度考え始めるとどんどん嫌な方向へ思考が持っていかれる。
「それで、話って?」
シェリーが差し出してくれたコーヒーを受け取る。1口飲んで頭を切り替えた。
『貴女に拳銃の扱い方を教えないといけなくて。都合のいい時を教えて欲しいの』
「拳銃?なんでまた……」
『護身用かな?万が一の為ってことだと思うよ。覚えておいて損はないし』
「いつでもいいわ。なんなら今からでも」
『そう?じゃあ、これ飲んでから……』
きっとこの時間なら射撃場には誰もいない。そもそも人がいることの方が少ない場所だけど。
コーヒーを飲み終えて立ち上がる。
『お待たせ。じゃあ行こう……あ、白衣は脱いでいった方がいいかも』
シェリーと一緒にラボを出て射撃場に向かう。
『ねえ、ジンってよく来るの?』
「よくって程でもないけど来るわよ。監視されてるみたいですごく嫌だけど。でも、どうして?」
『ううん、ちょっと気になっただけ』
「あ、ジンにラボでタバコ吸うの辞めてって言ってくれない?」