第29章 譲れないもの※微
ジンside―
昨夜のことを思い出しながらタバコに火をつけた。私情で人を殺したのは久々な気がする。
あの場にいた男達を撃ち殺し、残った女はバーボンに殺らせた。その場から立ち去ろうとするバーボンに銃口を向けて聞いた。
「てめぇ……どうしてこの場所がわかった」
「そんなことを知ってどうするんです?」
「答えろ」
「……お転婆な猫には鈴をつけておかないと。そうすればどこにいてもわかるでしょう?まあ、今回は自分で鳴らすまでに時間がかかり過ぎたようですが」
それ以上のことを聞けば、こいつの事も殺りそうで拳銃を下ろした。いけ好かねえヤツだが、こいつの能力は確かだ。下手に手を出せば、こいつの能力をかってるラムが黙ってねえだろう。
「……チッ」
拘束され、男にいいようにされているあいつを見て、恐怖を感じた。声も上げず、抵抗する素振りもない。自分がどうなろうと何も思っていないあの表情は、いつ見ても気分が悪くなる。いつか、俺の知らないところで死ぬかもしれない……そう思わせる。
アジトに戻り、亜夜をバスルームに押し込んで部屋を出た。あいつを見て手加減なんかできる気がしなかった。自制が効かなくなる前に離れるべきか……ひとまず落ち着くまでは。
そう思って今夜は自室で休むことにした。ベッドに寝転がれば、その異様な広さに虚しさを覚える。もしかしたら、あいつから連絡がくるかも……なんて女々しい考えまで頭をよぎる。結局、連絡はこなかったが。
ふと、あいつの匂いがした。ふわっと微かに。
「……ああ」
一週間前にあいつの服をこの部屋に置いた。きっとその服の匂いだろう。
「……」
そんなものにさえ反応する自身に呆れる。ほぼ毎日抱いていても、まだ足りない。本当なら今、この瞬間だって抱きたいのに。煩悩を打ち消そうと試みたが、一度考えてしまえばもう手遅れで。
……俺もずいぶん成り下がったもんだ。匂いだけで反応するなんて。
収まる気配のないそれを取り出して、自分の手で扱く。抱いているときの亜夜のことを思い浮かべながら。その身体も表情も声も……全てが狂うくらいに愛おしくてたまらない。
「くっ……」
思ったより早く達した。手に飛び散った白濁に嘲るような笑いが漏れる。それと……硝煙と血の臭いも洗い流すためにバスルームへ向かった。