第29章 譲れないもの※微
『人間らしいって……』
「それと、貴女はもう少し自分の価値を理解するべきだと思いやすよ」
『価値?』
「貴女は十分強いです。貴女だけです。自身に対して低い評価をしているのは」
『でも、こんなミスするような人間だよ?』
「本当に必要のない奴なら、わざわざ探して助けに行ったりしやせん」
『……』
なんて返そうか迷っていると、助手席側のドアが開いてジンが乗り込んできた。
「……出せ」
硝煙と……微かな血の臭い。ゆっくり動き出した車の中は、アジトに着くまで静かだった。
アジトについて車を降りる。歩き出そうとしたところで、肩をグイッと掴まれた。
「ウォッカ、報告は任せた……来い」
肩の手が離れていき、さっさと歩き出したジンの後を追った。ついたのは私の部屋。ジンはドアを開けたかと思うと、手を掴まれてそのままバスルームへ押し込まれた。
「……その汚ねえ体、どうにかしろ」
バタンと閉められたドアに虚しさが湧き上がる。
『汚い……か』
そして自分を嘲るような笑いが漏れた。ていうか、服着たままだし……着ているというのが正しい表現なのかわからない格好ではあるけど。少しだけドアを開けてウォッカのジャケットと、布に成り下がった物を外へ放り投げた。
顔も体も普段以上に念入りに洗う。誰かに触られることに抵抗がある訳じゃないが、その場面をジンに見られたことはどうしても……。手錠で擦れた手首は水に当たってヒリヒリした。
早くジンに抱かれたかった。上書きをして欲しかった。いつも以上に……酷くされたかった。そう思いながら、体を洗う手を早めた。
バスローブを着て、部屋に戻った。でも、そこにジンの姿はなかった。報告に行ってるのか?何にしてもしばらくしたらまた来るだろう。そう思って破れた服の始末をしたり、どうにか時間を潰したのだけど。
日付が変わっても、ジンが帰ってくる気配はなくて。連絡しようか迷ったけど、なんて言えばいいのかわからない。
ベッドにいるのは自分一人だけ。こんなに広かったっけ?ってくらい久々。きっと、忙しいんだろう。たぶん、朝までには戻ってくるよね……?横になればようやく睡魔が襲ってきて目を閉じた。
翌朝、目を覚まして隣を見た。そこにジンの姿はない。それどころか、夜のうちに戻ってきた様子すらなかった。
『……ジン、会いたいよ』