第29章 譲れないもの※微
バーボンside―
マティーニに渡した指輪から反応があり、急いで駆けつけてみれば思った以上に酷い有様だった。あの令嬢にマティーニには手を出すな、と忠告したにも関わらず。自分はよほど気に入られてしまったらしい。
ウォッカとマティーニが去った部屋。男達は属する組織を聞き出した後、ジンが撃ち抜いた。バタン、バタンと倒れていく男達を見て、令嬢は泣き出した。
「や、やだ……殺さないで……死にたくない……」
「僕は忠告したはずですよ。彼女には手を出すなと」
「だって、貴方が私のものに、なってくれないから……」
「それは何度も……」
「おい、さっさと殺れ」
「……そう言うなら貴方が殺ればいいでしょう」
そんなに起こっているなら、その原因を作ったこの女を自分で殺せばいい。そう思いながら言い返した。
「こうなったのは、てめぇのやり方が甘いせいだろ。それとも何かできねえ理由があるのか?」
「……いいえ、殺りますよ」
拳銃を女に向けた。そうすると狂ったように喚き出す。
「やだやだやだっ……お願い、ゆるして……!」
「恨むなら自分の浅はかさを恨んでください」
「な、なんでもするから、だから、殺さないで……」
撃鉄を起こして引き金に指をかける。震えそうになる自分に言い聞かせた。
今の僕は、バーボン……犯罪組織の一員。
「……さようなら」
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あの場からどう自分の車に戻ったのか、記憶が曖昧だ。
人を殺すのは初めてではない。組織に溶け込むため、怪しまれないようにするために何人か手にかけた。ほとんどが犯罪者で、いつ裁かれてもおかしくないような奴らばかり。運悪く、裁きの時間が早まっただけだ。
マティーニ……亜夜の酷い姿を見て怒りが湧いた。それをどうにか抑えたものの、結果として意味はなかった。あの場でジンの命令に背いていたら、自分が死んでいたかもしれない。
だから、その必要のなかった女をこの手で……。
「……これでいいんだよな」
組織の壊滅の為に、僕はここに居続けなければならない。ミスをして終わらせる訳にはいかない。多くの人を守る為、その為に……切り捨てるべき命だった。仕方のないことだ。
「自分は正義だと言うつもりか……こんなに汚れた手で」
それを言ったのはバーボンか安室透か、それとも……。