第29章 譲れないもの※微
「いっ、いや……離してっ……」
『ほら大丈夫よ。支えててあげるから』
「やだ、撃たないから……離して……」
『自分が死ぬかもしれないのにいいの?』
「それもやだ……」
『……殺すか殺されるか。どうしたいの?』
「ど、っちもいや……」
『そんな甘い考えでこんなことするから、痛い目見るのよ』
力の抜けた女の手から拳銃を抜き取り、太もものホルスターにしまい込んだ。
『……お待たせ、行こう』
ウォッカの後について部屋を出ようとした。が、その肩をジンに掴まれる。
『何?』
「……こいつらはどうする」
『あー……好きにしていいんじゃない?』
「そうか」
肩から手が離れたのを確認して、再び歩き出した。部屋を出てしばらく行くと、後ろの方で微かな銃声が聞こえた。
10分程歩いてジンの車についた。
『ずいぶん入り組んだ所にあったのね……よく見つけたじゃない』
「ええ……バーボンが」
『へぇ……』
後部座席のドアを開けてくれたので、そのまま乗り込んだ。シート、汚さないようにしないと。ウォッカは運転席に座ってエンジンをかけた。
『ねえ、ウォッカ』
「はい、なんでしょう?」
『私が……マティーニでいいのかな?』
「それはどういう……」
『私みたいなのが幹部でいいのかって話』
灯りの少なくなった窓の外を眺めながら話す。ウォッカは何も言わない。
『きっと、今回のことをバーボンは予測していたはず。でも……ここまで事が大きくなることは予定外だったと思う』
「……」
『私が拘束される前に対処できていれば……』
「しかし、相手は複数人で……」
『人数なんて関係ないよ。今までは……この組織に来る前は相手が何人いても対処できてた。私、すごく弱くなった』
「まさか、そんなこと……」
『どんな気配も警戒して対処して……そんなことができない。普通の気配には警戒できなくなってる』
「……」
『たくさんのこと教わって、できることは増えてる。でも、私自身はどんどん弱くなっていく』
「マティーニ……」
『どうしよう……これじゃこの組織にいたって役に立てない』
「……確かに貴女は変わりやした。でも、それは悪い意味じゃありやせん」
『え?』
「ここに来たばかりの時より、ずっと人間らしい。俺は……今の貴女の方が信頼できる」