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【名探偵コナン】黒の天使

第29章 譲れないもの※微


ゆっくりと指先に血が巡っていく感覚がする。一息ついて、セットしてある髪からヘアピンを抜き取り、それを使って手錠を外した。

『あ……』

擦れて赤くなった手首はヒリヒリと痛む。外れた手錠を地面に落として、フラフラと立ち上がった。肩からずり落ちそうになるドレスを見て、今の自分の格好を思い出す。まともなのはヒールだけで、ドレスも下着も意味をなしてない。どうしようもないから、裂けたドレスの両端を合わせた。

そんな格好をしているにも関わらず、突き刺さるような視線を送ってくるのはジンだけ。バーボンとウォッカはこちらを見ないようにしてくれてるし、女と5人の男達は……それどころではないだろう。

「……おい」

ジンが私を顎で示す。するとウォッカが近づいてきて、ジャケットを肩にかけてくれた。サイズが大きいので、前を閉じればこれだけでワンピースみたいになる。

『……ごめん、ありがとう』

「いえ、お気になさらず」

続けてハンカチを取り出し渡してくれた。顔にかけられた白濁を拭け、ということでいいだろう……ジャケットもハンカチも新しい物を買って返そう。

「先に戻って車回しとけ」

「承知しやした。マティーニ、行きましょう」

ジンの指示にウォッカと歩き出そうとした。そこで、ふと思い出す。

『あ、待って』

「……どうかしやしたか?」

『うん、ちょっと……』

そう言って体を腰を抜かしている女の方に向けた。

「な、なによ……」

『それ、返して』

女の傍らに落ちている拳銃を指さした。すると、女は我に返ったようにその拳銃を取り、私へ銃口を向けた。

「こ、来ないで!来たら撃つわよ!」

「おい、てめぇ……」

『ジン待って』

ジンに声をかけて制止し、女の方にゆっくり歩み寄る。腰を抜かしたままじゃろくに逃げられず、先程まで自身がかけていた椅子に当たって止まった。

女の目の前にしゃがみこんで目を合わせる。形勢逆転とはまさにこのことだろう。

『それ、返して?』

「イヤ……イヤイヤ!死にたくない!」

『そう……なら、撃ってみる?』

「え……?」

『死にたくないなら殺さないと……この世界では常識よ。だから、さっき一人死んだじゃない』

女と連動して震え出した銃身を掴んだ。

『いくら撃ったことがなくても、この距離なら外さないでしょ?』
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