第29章 譲れないもの※微
「何度も彼に言ったのよ、私のものになってって……でも、あんたがいるせいで断られたの!」
『……は?』
「とぼけても無駄なんだから!あんたが彼を縛りつけてるんでしょ?そうじゃなきゃ、私が断られた意味がわからないもの!」
この女の思い込みでこんな所に連れてこられたのか……きっと何を言っても聞く耳を持たないだろうし。何回呆れさせる気だろう。
「だから、直接あんたに言おうと思って」
『……』
「あんたが彼を私に譲るって言ってくれればそれでいい。そうすれば、彼も私のものになってくれるでしょ?」
『別に恋人同士じゃないし、彼とはただの仕事仲間。だから、私が何か言ったところで……』
「嘘よ。だったらなんで、あんたに手を出すなとか言われるわけ?」
……全く余計なことを。以前のパーティでの一件のせいなのだろうか。こっちは……ライのジャケットを見つけるまで忘れてたのに。
『私に聞かれたって困る。心当たりがない』
「それなら早く言ってよ。言質が取れればいいから……あんたもずっとこのままでいるの嫌でしょ?」
頭上の鎖が音を立てた。針金1本あればすぐに外せるのに……ヘアピンで代用もできるだろうけど、吊るされるような形になってるから、髪まで手が届かない。それどころか、両手を合わせることすらできない。どうにか体勢を変えないと……。
「言ってくれたらすぐに外してあげる。だからほら、早く」
この女が私より優位に立っていることが気に食わない。普段ならそんなこと考えもしないが……そもそも自分以下の人間と対立することなんて滅多にない。
『……』
「ねえ、言って」
『……断る』
「はぁ?ふざけてないで……」
『貴女みたいな女に渡すほど、彼は安くない。だから、断るわ』
「っ……ほんとムカつく女!自分が気に入られてるからって調子乗りすぎ!」
キーキー喚きながら離れていく。何をするかと思えば、向けられたのは私の拳銃。
「今すぐ言えば許してあげるわ。死にたくないでしょ?」
『何を言われても答えは変わらない。それと……』
女を睨みつけた。一瞬だが怯んだようだ。
『それは脅しの道具じゃない。命をかけられないヤツが持っていいものじゃない』
「意味わかんない!あんたなんか……!」
感情が高ぶったのか、引き金にかけられた指に力が込められたのがわかった。