第29章 譲れないもの※微
『……何?』
「お守りです。困ったら3回叩いてください」
『いらない。返す』
「今夜だけで構いません。つけててください」
いつもより強い口調で言われて小さく頷いた。それを見て、バーボンは微笑む。
「それでは、後ほど」
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任務は順調に進んでいるようだった。ターゲットも早い段階で見つかっていたし、そこから情報を盗むのにも手間がかかっている様子はなかった。
ただ、どこにいても視線を感じる。それも一つだけじゃない。狙われているのだろうか……。壁の方に寄って気配を探った。
できることなら今すぐその相手を見つけたいものだけど、こんな所で派手に動き回れない。捕まって、ドレスの下に隠してある拳銃が見つかるのは困る。
一度、会場を出てトイレへ行った。身だしなみが気になった。ただ、それだけ。
そろそろ終わるだろうか……と思った時、通信機から声が聞こえた。
「撤収だ。急げ」
『……了解』
バーボンかウォッカと合流したかったけど、あいにく姿が見つからない。仕方ない、トイレを出て会場の出口の方に向かおうとした。その瞬間、背後に感じた気配。
気づかなかったわけじゃない。普通すぎて警戒しなかった。
振り返ろうとしたが、手で口を抑えられて体に電流が走った。さすがにスタンガンを当てられて立っていられるほど、人間離れはしていない。力が入るわけもなくて、その場に崩れ落ちる。
平和ボケ……かなぁ。昔だったら対応が遅れるなんてなかった。口を抑えられる前に、相手を落とすことだってできたはずなのに。
私、この組織に来てから弱くなったな……。
意識を保つこともままならず、徐々に瞼が落ちていく。目が閉じきる寸前、視界にうつったハイヒール。そして、頭上から聞こえた声。
「きゃはははっ……ざまぁみろ!」
この声……そう考えようとしたがプツンと意識が切れた。通信機から声が聞こえた気がしたけど、それに答えることはできなかった。
目を閉じていても眩しさを感じて、ゆっくり目を開けた。スタンガンを当てられた部分がヒリヒリする。手を動かそうとしたが、手錠がかけられていた。それはまた別の鎖で柱に括りつけてある。それを見て、この場から動けないことを悟った。
「あ、起きた?」
顔を上げると、自分の髪をいじりながら笑うあの女がいた。