第29章 譲れないもの※微
ジンが運転席に座ってるのってなんか新鮮。そんなことを思いながら後部座席へ座る。車内はいつも以上にピリピリしてて無言の状態が続く。そうしてるのはジンなんだけど。
ちなみに今日の役割は、ウォッカとバーボンがそれぞれ別のターゲットから情報を盗み、私はそれに気づかれないように周囲の人間を引きつける。任務の難易度としては高くない。うまくやれば時間もあまりかからないだろう。
会場のホテルから少し離れた所に車が止まる。耳に通信機をつけ、それを髪で隠す。
『行ってくるね』
ウォッカが車からおりたのを確認して、ジンに声をかけた。が、返事はない。それどころかタバコに火をつけて吸い始める。イラッとしてタバコを口から抜き取った。
「おい」
『なんでそんなに機嫌が悪いのか知らないけど、なんか一言言ってくれてもよくない?』
「……」
『……もういいや。じゃあね』
ジンの口にタバコを差し込んで車からおりた。背後の車がすぐに走り出す音がして思わずため息をつく。
「マティーニ……」
『大丈夫。バーボンと1回合流しないと』
偽装された招待状を出して、会場に入る。見た事のある顔もちらほら。
「お疲れ様です。今日もお綺麗ですね」
『……貴方は相変わらずね』
バーボンの服装はいつもと同じ。場に会ったものだからいいのだけど……。
「それ、つけてくれたんですね。嬉しいです」
『1回くらい使わないともったいないでしょ』
「よく似合ってます」
「……すいやせん、ちょっと外します」
ウォッカはそう言って離れていく。その姿を見送った所で気づく。
『……彼女も来てるのね』
例の女。本当に切っても切れない縁ってあるんだな……。
「ああ、そのようですね。先日会った時にしつこく誘われましたから」
『抱いたんだっけ?どうだった?』
「まさか。薬使って目隠しして、玩具で遊んだだけです。まあ、都合のいい勘違いをしてくれたみたいで」
『あはは、貴方時々最低よね』
「……抱く相手は選びたいので」
耳元でそっと囁かれて、少しだけ背筋がゾワッとした。その時、あの女と目が合った……気がした。これ以上、バーボンの近くにいるとめんどくさいことになりそう。
『それじゃ、手筈通りに』
「待ってください」
バーボンは私の左手を引いた。振り返る前に人差し指に通された指輪。