第3章 コードネームと小さな天才
「……ラムが貴女を呼んでるわ」
ラム……その名前にちょっと背筋がゾワッとした。ラムとはあの招集以降話していない。
『……私、なんかしちゃったかな』
「そんなに怯えなくていいと思うけど」
『だって、あの時あんなこと言っちゃったから』
そう言うとキュラソーは、ああ、といった顔をした。
『大丈夫よ、普通にしてればいいわ。以前集まった部屋へ行って』
これはベルモットに渡しておくから、とキュラソーはデータを持って行ってしまった。
扉を開けると、既にモニターがついている。
「亜夜久しぶりか……」
『はい……すみません、お待たせしましたか』
「いいえ、気にしなくていい。それで、今回呼んだ件なのだが……」
緊張して脚が震える。
「あなたへコードネームを与えるようにと、あの方の命令があった」
『はい……あっ、えっ?コードネーム?』
……てっきりもっとマズイ話かと思った。
「そう……あなたの働きぶりは素晴らしいと。もう少し早く話すつもりだったが、なかなか時間が取れなくて」
『いえ、ありがとうございます。嬉しいです』
「そう言ってもらえてよかった。それで、あなたのコードネームは……マティーニ」
マティーニ……ジンとベルモットを使ったカクテルだったはず。
「……どうかな」
『ありがとうございます。気に入りました』
ジンとベルモットのことが好きなせいか、その名前は特別な感じがした。
「他の者にはメールで知らせる。時間を取らせた……これからも期待している、マティーニ」
そう言ってモニターが消えた。
しばらくそのまま立ち尽くしていた。コードネームをもらえたこと、何より自分のことを認めてもらえたことがとても嬉しかった。
ちょっと浮ついた気持ちで扉を開けた。
『え……なんで』
そこにはジンとベルモットとウォッカがいた。
「おめでとう、コードネームもらえたのね」
ベルモットがそう言って微笑んだ。
「フッ、ちょっと遅い気もするけどな」
ジンが言う。
『なんでここに?』
「キュラソーに聞いたのよ、貴女がラムに呼ばれたって。たぶん、コードネームもらうんじゃないかってね」
「マティーニですかい……」
『私、結構気に入ったよ』
「いいわね、私とジンの娘みたいな感じたし……」
「冗談じゃねえ」
そのやり取りに笑ってしまった。