第29章 譲れないもの※微
明美と志保と過ごしたあの夜から1週間後。今日は例のパーティの日。
探せと言われた板倉卓の居場所は案外早く見つかって、それをウォッカに報告したまではいいのだけど。スマホの電源を入れたままにしたのがよくなかったのか……けたたましく鳴り響く着信音にゾッとしながら出ると
「今すぐ帰ってこい」
と、尋常じゃない殺気を纏ったジンの声に渋々従い。帰るなりベッドに落とされ、そのまま何度意識を飛ばしたかわからない。任務があるにも関わらず、手加減なんて一切なし。失敗しなかったからいいものの……今日も体がだるい。
そして、今はパーティへ行くための準備中。バーボンとは現地で合流の予定。
『さあ、ウォッカ。メイクするよ』
「いえ、俺は……」
『その格好で行くつもり?冗談でしょ?』
「いや、その……」
『はぁ……ジン、邪魔するなら出てって』
「俺は何もしてねえ」
『それなら、その殺気抑えてもらえるかな?』
何が気に入らないんだか……子供じゃあるまいし。
『ほら、ウォッカ。帽子とサングラス取るよ』
もう、待ってたらいつまで経ってもできない。ここは強行突破。止められる前にサングラスも帽子も取り上げて、さっさとメイクをしていく。
『その顔なら別にサングラスしなくても問題ないでしょ』
「……」
『はい。これでどう?』
「……ありがとう、ございやす」
『それじゃ、私も準備するからちょっと待ってて』
メイクして香水をつけて……ドレスはやっぱり黒がいい。アクセサリーはどうしよう。
と、なんとなく目に付いたのはバーボンに貰ったネックレスと指輪。1回くらいつけてあげよう。黒いドレスになら白は映えるだろうし。
髪、巻こうかな……それとも結い上げる?最近はおろしてることが多いから、今日は結い上げよう。キスマークはなかった……よね?
『……よし。お待たせ。変じゃない?』
「ええ……お綺麗です」
『そう?ありがと』
ウォッカはそう言ってくれたけど、ジンはそっぽ向いて何も言わない。ちょっとムッとする。
『じゃあ、行こ。運転は?』
「……俺がする」
「兄貴?今日は……」
「うるせえ」
「す、すいやせん……」
『え?なんでジン?』
「……行くぞ」
ジンの機嫌は悪くなる一方で。きっと、運転するのも今決めたことで。呆然としたウォッカをつついて、ジンの後を追った。