第28章 女子会
2人の姿が見えなくなったところで、小さい鏡を取り出す。
『よし、ついてない』
以前キャンティにキスされた時、口紅のあとがすごくついてて……しかもそれをジンに指摘されるまで気づかないっていう……。それ以降、彼女にキスされたら鏡を見るようにしてる。キャンティの気持ちは嬉しいし、きっと拒否しても聞いてもらえない気がする。
『うーん、ちょっと早い?』
明美を迎えに行って、チェックインを済ませて荷物を置いて……それでも、志保が着くまで時間がある。そもそも、明美と約束した時間にも早いし。
とりあえず、車に乗り込んで考える。どこかへ行くのには時間がちょっと足りないし、かと言って暇つぶしには長すぎる。カフェでも行く?でも、素顔だし……。
頭を悩ませていると見慣れた白い車が入ってきた。フロントガラス越しにバーボンと目が合う。
バーボンは車を降りて、こちらへ歩いて来る。運転席側の窓を開けた。
「お出かけですか?」
『……まあ、そんなとこ。貴方は何の用事?』
「今度の任務で使う……薬を頼もうと」
『へえ……もうそんな任務回ってきたのね』
「今回は最終試験みたいな感じですよ。例の取引相手の娘を落とせ、と」
『例の?』
「覚えてませんか?以前、パーティて貴女に水をかけたあの女ですよ」
『……ああ』
そういえば、そんな女いたな。顔ははっきり思い出せないけど。わざわざ落とさなくたって、こちらの言うことは聞くだろうに。
『ていうか、惚れられてたじゃない。落とすも何も……』
「興味のない方からの好意ほど面倒なものはありませんよ」
バーボンの指が頬をサラリと撫でる。そして、その指は唇に……
「……キスしていいですか」
『こんな所でするなんて……死にたいの?』
どこでジンが見てるかわからないのに……命知らずというか……。
「残念です……では、次の機会に」
『次なんてあると思ってるの?』
「期待くらいさせてください。それに……」
顔が寄せられて、反射的に目を瞑った。唇は重なることなく、耳にバーボンの吐息を感じる。
「僕は本気ですから」
耳の縁に唇が触れる感覚がした。バーボンの顔が離れて、目が合わせられる。
「また、デートしましょうね」
『……気が向いたらね』
「楽しみにしています。それでは」
去っていくバーボンの背に、深いため息をついた。