第25章 本音か嘘か※
『……そんなこと言ったって落ちないわよ』
鏡越しに合った目を逸らした。そして言い終わった後にハッとする。これじゃ、自分も意識してるみたいじゃないか。
「先は長そうですね」
その声は嬉しそうで、でもどこか違和感があって。セックスするくらいどうってことないのに、昨日と今日でバーボンとの関係が変わってしまった気がする。
『ちょっと早いけど出よ』
時計の針は10時になりかけるところ。予定より1時間も早い。
「お腹空いてませんか?」
『空いてるけどこの格好で出歩くの嫌。帰ってから食べるから気にしなくていいわ』
「……そうですか。それなら急いだ方がいいですね」
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ここに着くまでの車内は静かだった。どこへ寄ることもなくアジトの駐輪場に車が止まった。
『……それじゃ』
「あ、待ってください……これ、本当はこの間渡したかったんですけど」
差し出された箱を受け取るべきか悩んだ。
『……なんで?』
「貴女に似合うと思ったので。デートと今回のことのお礼も兼ねて……必要なければ処分していただいて構いません。だから、今は受け取ってもらえませんか?」
そう言われれば受け取るしかない。
『……ありがと』
「いえ」
『じゃあ気をつけて』
ドアに手をかけようとした。が、反対の手を掴まれて思わず動きを止める。
「亜夜……」
『……ここでその名前辞めて』
「すみません。でも、伝えたいことがあるのはマティーニである貴女にではないので」
『伝えたいこと?』
「僕は本気です。昨日伝えた気持ちに嘘はありません」
『っ……』
「……利用してくれるだけでも構いません。僕は貴女のそばにいたい」
紡がれる言葉に揺れる心が怖くて、その言葉を忘れたくて目を瞑った。
「引き止めてすみません」
手が離れていくのを感じてすぐにドアに手をかけ外へ出た。いつもならここで少し話すけど、今日はそんなことできない。すぐにアジト内へ繋がる扉へ向かった。
部屋に着くまで誰にも会わなくてよかった。ドアを開けるとモワッと香るタバコの匂い。でも、部屋の中にジンの姿はなかった。
よかった。後ろめたいことがある訳じゃないけど、ジンの前でこの箱は開けられない。恐る恐る箱を開けるとそこにはネックレスと指輪……嵌められているのは白い石で。