第23章 デート……?
「いいですね。少し遠いですけど、綺麗に見える所があるんですが……どうですか?」
『うん、そこでいいよ』
そう答えるとあくびが漏れた。寝てない訳じゃないんだけどな。
「寝ていいですよ。ついたら起こしますから」
『……うん』
目を閉じると意識が遠のいていった。
眩しくて目を開ける。車内にいるのは私だけ。そこからでも夕日に反射して波がキラキラ輝いているのが見える。
車から降りて透の姿を探した。
「亜夜?起きたんですね」
背後から声がして振り返る。そこには缶コーヒーを持った透。
『ごめん、しっかり寝ちゃった』
「気にしないでください。可愛らしい寝顔も見れましたし」
『……そう』
今日の透はなんかおかしい。普段からそういう事は言ってくるけど、いつもと違うというか……。
その時、強い風が吹いて髪がなびいた。乱れてしまった髪を手ぐしで整える。同時に潮の匂いがした。
『……4人で来たかったな』
そう呟くとあの時と同じ思いが込み上げてきて俯いた。じわじわ涙が浮かんでる気がする。スコッチが死んだ時の……それに、ライもいなくなってしまった。この先、また誰が私の周囲から消えていくのだろうか。
「……亜夜?」
心配そうな透の声に顔を上げる。顔を合わせることはできないけど。
『貴方は……いなくならないよね?』
「……ええ」
『ふふっ……そっか』
目をゴシゴシ擦った。メイクが崩れる、なんて考える余裕はない。
「亜夜……」
『帰ろ。先行ってる』
呼び掛けに反応せず、透に背を向けて歩き出した。
その時、腕をぐっと引かれ、体勢が崩れそうになって思わず振り返る。そのまま抱き寄せられて、気づけば唇が重なっていた。
何が起きているのか理解するのに時間がかかった。触れるだけの、でも、優しいキス。
『なんで……』
口が離れてどうにか言葉を絞り出す。
「すみません、嫌でしたか?」
目尻を指先でなぞられる。微笑む透の表情は……
「涙止まりましたね」
愛おしいものを見るかのようで。心臓の音がうるさい。
「……行きましょうか」
手を引かれて車へ向かう。帰りの車内は終始無言だった。
『……ありがとう。気をつけて帰って』
「ええ、とても楽しかったです。それでは」
走っていく車を見送ってアジトへ戻った。