第20章 今だけ
ラムとの電話はそこで切れた。
「……すぐにメールを確認しろ。てめぇにも聞くことがありそうだがな」
なぜあの場所にいるのか……バーボンが黒である可能性も捨てきれない。
「詳しいことはそちらで……」
「急げ」
「はい、また」
ベルモットへスマホを投げ返す。睨まれたがそんなことに構ってる暇はない。
「あ、兄貴……」
いつの間にかいたウォッカ。そんなことにすら気づかないほど焦っている自分。
「……ついてこい」
あの場所からここまでは車で数分。すぐに駐車場へ向かった。
扉を開けると同時にヤツの車が入ってくる。助手席にいるマティーニにかけられた服は血に染まっていた。
「……ウォッカ、こいつを連れてけ」
「へ……?あ、承知しやした……マティーニ、失礼しやす……」
あの時と違って意識はあるようだ。ウォッカがアジト内に入っていったことを確認して、バーボンに銃を向ける。
「てめぇはどうしてあの場所にいた?」
「たまたまです。あの場所は気になっていたので……時間があったので、取引に使えそうかと散策していたら彼女を見つけたんです」
「……今回はそういうことにしといてやるよ」
妙な理由だがマティーニを助けたのは事実。銃をおろし、バーボンを睨みつけた。
「さっさと行け」
「……彼女の容態は教えてくださいね。あと、これ渡しておいてください」
そう言って渡されたあいつの銃とヒビ割れたスマホ。ヤツの車が去っていくのを確認してアジト内へ戻った。
「兄貴……」
「あいつは?」
「意識はあったんですが、出血が酷いようで……」
手術中のランプが灯ったのを見て奥歯がギリッと音を立てた。
あの男……絶対に殺す。
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やっとランプが消えた。出てきた医者は微笑んで言った。
「無事に終わりました……麻酔はもう少しで切れます。輸血の必要もありません」
「……そうか」
どうぞ、と中へ促される。
「ずいぶん近い距離で撃たれたようです……しばらく右手は動かさない方が良いかと……部屋に戻って頂いて問題有りませんが、1日1回包帯を変えてください」
そう言って医者は出ていった。部屋に眠ったままのマティーニと2人残される。
「ったく……どうすればいい……」
……どうすれば、お前を傷つけずに済む。