第20章 今だけ
ライside―
バーボンの車が走り去るのを確認して本当の仲間に連絡をした。
「俺だ。撤収してもらった後で悪いんだが拾ってくれないか?事情があってここから動けないんだ」
数分後、来た車に乗り込む。
「ちょっ、それ!大丈夫ですか?!」
「……ああ、殺されかけてな……追ってきた奴の返り血だ。問題ない」
「そいつは連れて行かなくていいんですか?」
「今回のターゲットとは別の奴だからな……」
納得のいってない顔をされたがそれ以上は何も聞かれなかった。差し出されたタオルで顔を拭う。
しばらくして、諸星大の名義で借りている部屋に着く。明日にはここにも組織の手が回るだろう。早く出るに越したことはないが、この状態では外を歩けない。3時間後に迎えを頼んで部屋に入った。
物はほとんどない。必要なものだけまとめ、シャワーを浴びるためバスルームへ向かった。服を脱ぐと手に当たる硬い感触。血に濡れたそれの引き金が引かれたのは2回。どちらもその弾が貫いた本人達に引かせてしまったもの。
拳銃を血に汚れた服の上に置き、頭から冷たい水を浴びた。
「まさか……女2人に助けられるとはな……」
気をつけていたのに明美にはとっくに正体がバレていた。
マティーニには借りを返されるはずが、かえってこちらが大きな借りを作ってしまった。
マティーニに撃たれた場所が若干痛むが、どの傷も決して深くはない……他についた傷との見分けなんてつかなくなる。彼女が自身につけた傷は一生……。
「ハッ……なんてザマだ」
正体のバレてしまったスコッチを逃がすことも、明美の涙に気づくこともできず、敵であるはずのマティーニ……亜夜に助けられて……。
違う形で出会っていたら何か変わっていただろうか。
何の答えも出ないまま時間だけが過ぎていった。3時間なんてあっという間で。
「もう大丈夫か?」
「ああ。奴らが来ても問題はない」
俺の痕跡を全て消し、その部屋を出た。吹き付ける風は冷たい。それになびく自分の髪……これもまた近いうちに切ってしまおう。
「……大丈夫か?ぼーっとしてるけど」
「考えごとだ……これからのことについてな」
「流石だな」
「やめてくれ、作戦は失敗したんだ」
車に乗り込んで早々、タバコに火をつけた。
呆気なく幕をおろした潜入捜査……守りたいものは守れないままで。