第20章 今だけ
入口のドアに手をかけたところでハッとする。
……助けに行く必要があるのか?
彼女は倒さねばならない組織の幹部で、彼女ほどの能力を持った奴がいなくなればこちらにとって都合がいい。あの男に言われたからって助ける必要なんて……
―貴方のこと信じていいのよね?
何度同じことを聞かれただろう。その度に胸の内にあるものを隠してもちろん、と答えて、でも、それを聞いて向けられる笑顔には悲しみが混じっていて……。
「クソっ……」
ドアを勢いよく開け、車へ走った。彼女のことは心配だし、最後のすまなかったとはどういうつもりなのか……ただ奴への憎悪は増すばかりだった。
「……死ぬなよ、亜夜」
自分が知り得る最短ルートを頭に浮かべアクセルを踏み込んだ。
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あの場での止血は無理だと判断し、横抱きにして車まで運んだ。しかし、どこへ連れていくべきか……1番いいのは病院だろうが、こんな傷では変に疑いをかけられることは避けられない。ならば……ベルモットに電話をかけた。
「Hi」
「僕です。アジトの場所教えてください」
「バーボン?急に何かと思えば……どういう……」
「マティーニが撃たれています」
「は?!まさか、あの男……」
「ええ、おそらく」
「マティーニは無事なのよね……あ、ちょっと……」
「そこで待ってろ。迎えに行く」
ベルモットの慌てる声が聞こえたかと思えば、耳に飛び込んできたのはジンの声。電話越しの声でも尋常じゃない殺気。
「僕が連れていった方が早いかと思いますが」
「……すぐにメールを確認しろ。てめぇにも聞くことがありそうだがな」
「詳しいことはそちらで……」
「急げ」
「はい、また」
電話が切れたのを確認して、メールを見る。そこにはアジトの住所が。
思わぬ収穫だが、今はそれどころじゃない。
「少し飛ばしますよ」
マティーニが頷いたのを確認して車を走らせる。車が揺れる度に苦しそうな声。
『なんで……あの場所に……』
「それは……」
あの男から連絡があったことを伝えるべきか迷った。しかし……
「たまたまですよ。あの付近は気になっていて、時間があったので見に行ったら貴方がいたんです」
『……今はそういうことにしとくわ』
車内に沈黙が落ちると同時に駐車場の入口が見えた。