第20章 今だけ
安室side―
長時間、パソコンに向かっていた体をぐっと伸ばす。
「……そろそろ切り上げるか」
今日は私立探偵の情報収集……というのは表向きで、実際は組織のメンバーについて調べていた。簡単に見つかるものではないとわかっているが、きっとどこかに糸口はあるはず。
しかし、これといった収穫は得られなかった……少しでもメンバーの口から何か情報を得られればいいのだが。
外もすっかり暗くなってきた。デスクから立ち上がり組織用のスマホを開くと一件のメール。差出人は……
「ラム……」
何度か聞いたことのある名だが、一度も会ったことはない。まだアジト内に出入りはできないし、何よりラムと言う人物は滅多に人前に出ないらしい。そんな人が何の用件か……そう思ってメールを開く。短く書かれたその内容に目を見開かずにはいられなかった。
《ライはNOC》
あの男がNOC……その事実にあの時の光景が蘇る。
「ならば……なぜ……」
どうしてスコッチに自殺させた。逃がすことくらい……いや、あの場にマティーニがいた時点でそれはかなわなかった。それでも……!
行き場のない怒りがフツフツと湧き上がる。どうにかしまい込んでいた感情は簡単に溢れ出した。抑えきれずに壁を殴る。
途端鳴り響く着信音。画面を見れば今1番話したくない、殺したいくらい憎い相手。無視しようかも悩んだが電話は鳴り止みそうになかった。
「……はい」
「今一人か?」
「何の用です?スパイである貴方が……」
「もう聞いたか……ならば話は早い」
余裕そうな電話越しの声……組んで任務を行っていた時でさえ、連絡などほとんどしたことがなかったのに。一体この男は……ライは何を考えている?
「殺されるかもしれないリスクを負うほどの話ですか?」
「ああ……今から○○○にある倉庫へ向かえ」
「は……?僕を捕まえる気で……」
「マティーニに殺されかけてな……逃げるために奴を撃った」
それが嘘には聞こえなかった。ぐるぐると思考が混ざっていく。
「まだ死んではいないはずだが……かなり深い傷だから下手すれば失血死するだろうな」
「貴様っ……」
「……もう会うことはない。彼女のことを任せたぞ、バーボン。それと……彼のことはすまなかった」
「あっ、待て!おい!」
切られた電話に舌打ちをしながら車のキーを手に取った。