第20章 今だけ
『本気で対抗しないなんて、ずいぶん舐められたものね』
「生憎今回の標的はお前じゃない。何度か組んだよしみで見逃してくれると助かるんだが」
情けをかけられた上に逃がせだなんて……怒りは湧く一方。
『馬鹿なこと言わないで……貴方のこと信じてたのに残念だわ』
撃鉄を起こす。利き手に持ち変えようかとも思ったが、その隙に撃たれる。利き手じゃなくてもこの距離なら外さない。
『……最後に言いたいことは?』
「フッ……最後、か」
『何もないならこのまま……』
「いや、一つ頼みがある」
『頼み?』
「ああ。あいつの……明美のことを守ってやってくれ」
予想しなかった言葉にスっと怒りが引いていく。この状況で他人の……明美の心配?利用していたのに?
『ふっ……あはは』
笑いがこぼれた。それはライに……ではなく、自分に対して。感情に任せて引き金を引こうとした自分に。怒りが引いてしまえばそれはできない。
……私はライを殺せない。
『当たり前でしょ?言われなくたって、あの子のことは何があっても守るつもりよ』
「……そうか」
『今更情でも湧いた?』
「あいつには辛い思いしかさせられなかったからな……」
『……気づくのが遅いのよ』
それだけじゃない。明美が一番悲しむのは……。
『そういえば……あの時の借りまだ返してなかったわね』
大きく息を吐く。心臓がうるさい。
『今、ここで返させてもらうわ』
銃口を自分の右肩に当て、奥歯をぐっと噛み締める。
「っ……待て!」
ライが駆け寄ってくる。その手が拳銃にかかる瞬間、引き金を引いた。
『ぐっ……』
顔に血が飛ぶ感触と肩への激痛。左手から拳銃が滑り落ち、その手で傷口を押さえる。
「なぜ……」
『……そうね、私は貴方を尋問しようとした……でも、拳銃を奪われた挙句、利き腕を撃ち抜かれて、追うことができなかった……っていうのが一番筋がいいかしら……』
右の指先から血が落ちる。足元には小さい血溜まり。
「どうして俺を撃たない?!」
『……そんなことしたら、あの子悲しむでしょ』
「だからって……敵を逃がすのか?」
『勘違いしないで……今だけよ』
力の入らない目で睨みつける。
『明美の記憶から貴方が消えたら……その時は殺しに行く。だから……今は』
「……お前達とは違う形で出会いたかった」