第20章 今だけ
「なんの真似だ」
『貴方が一番よくわかってるでしょ?』
1歩ずつ近づいていく。ライは動こうとしないが。
『……無能な部下を持つと大変ね。一瞬で3年間が水の泡になった気分はどう?』
「彼は悪くない。俺の指示不足だ」
『へえ……ずいぶん優しいのね』
そのまま引き金を引いた。ライの腕をギリギリ掠めるくらいを弾が通り抜ける。上着が裂け、うっすら血が滲む。
「フッ……この距離で外すのか」
『まだ、貴方には聞かなきゃいけないことがあるの……簡単に殺すわけないでしょ』
次は太ももの当たりを狙って撃つ……先程より深めに。そうするとライの顔が少し歪み、血が流れてくる。
『貴方達の目的は何?今日ここに潜んでいた理由は?』
「……ジンを捕らえるためだ。奴を潰せばお前らのボスにたどり着けると思ってな」
ギリッと奥歯が音を立てる。全ては今日のため……ジンと任務を組むことになるこの日のために3年も費やしたのか……呆れる話だ。
『貴方はどこの組織の人間?』
「……そのくらいわかっているだろう」
『じゃあ、別の質問……あの時本当にスコッチから情報を引き出す気だった?』
「可能なら逃がしたかったがな」
『やっぱり……それじゃ彼に適用する気だったの?あの馬鹿げたプログラム』
「……」
無言とは肯定の意味だろうか。それならばライの所属はFBI。
『……あの子は貴方のこと知ってるの?』
「昨日伝えた。今日で終わるはずだったからな」
今度は肩を狙って撃つ。今、一番強い感情は怒りだった。
『なんであの子なの?どうして他の人じゃないの?』
「誰でもよかったんだがな……組織の人間であれば」
銃を持つ手が震える。
『あの子を利用したってこと?あの子にかけた言葉は全部嘘?』
「……ああ」
その言葉を聞いた瞬間、ライに殴りかかった。それは避けられず、彼の頬へ当たり、鈍い音がして自分の拳にも痛みがくる。ライの口の端から血が垂れた。
続けざまに蹴って殴ってを繰り返した。避けなかったのは初撃だけで、あとは弾かれたり躱されたり……怒りのままに攻撃し続けた。
『くっ……』
右手に強い一撃が与えられ力が緩む。その隙に拳銃を抜き取られた。しかし、僅かに生まれた油断を見逃さずライの胸元から、左手で拳銃を抜き取る。
距離が開いて、互いに拳銃を向け合う形になった。