第20章 今だけ
『……もしもし』
「マティーニ、いつぶりだろうか」
『……貴方からの連絡とは驚きましたよ、ラム』
電話どころかメールも滅多に来ないラムからの連絡。機械越しの声に背筋が無意識に伸びる。
「君の活躍は聞いている……じっくり話したいところだが、生憎そうもいかない」
『……一体何が』
「ライがNOCであることがわかった。早急に始末しなさい」
『ライが……ですか?』
淡々と告げられた言葉に目を見開かずにはいられなかった。
『どうしてそうだと……』
「今日の任務については聞いたかと思うが……集合場所に奴の仲間が潜んでいた。今日のことはそこに集まる3人と君しか知らないはず……故に奴はNOCであると判断したまで」
心臓の音が大きくなっていき、冷や汗がつたう。
『ジンは……』
「彼には既に連絡済。あの場所には奴しかいない」
『……わかりました』
「可能であるなら、いくらか情報を引き出してから始末を……しかし、万が一奴の仲間がまだ潜んでいるようなら一度連絡をしなさい。今、君を失うのは組織にとって大きな損失になる」
こちらが返事をする間もなく切れた電話。耳から離したスマホを……思い切り壁に叩きつけた。
バキッと画面が割れた音がする。でも、それにかまっていられるほど冷静にはなれなかった。
いろいろな感情がごちゃ混ぜになって前髪をグシャッと掴む。
『……もうやだ』
小さくこぼれた呟き。また一人失うのか……しかも私がその命を奪うなんて……ラムの命令に逆らえる人間はこの組織にいない。従うしかないのだろう。
スマホを拾い上げて、予想通り割れた画面にため息をつく。そして、電源を落とした。集合場所は昨日ジンが言ってたのを覚えているから問題ない。
アジトからもあまり遠くないし、なんとなく車は辞めた方がいい気がしてその場へ徒歩で向かった。暗いし、人目を掻い潜って進むのは慣れてる。
集合場所の倉庫周辺を見て回る。怪しげな車もないし、人影も見えない。仲間とやらは撤退したのだろうか。
そして、明かりのついている倉庫へ入った。カツンカツンと私のヒールの音が響く。
「なぜお前が」
『……ジンの代わり。急用らしくて』
答えると舌打ちの音。
「……いつまで待たせる気だ」
『何言ってるの……もう誰も来ないわ』
そう言ってライへ……右手に持った拳銃を向けた。