第19章 アンバランス
『ああ、それと……仲良くしろとは言わないけど、最低の会話くらいしなさいね』
毎回仲介にされるこっちの身にもなって欲しい。バランスを保とうとするのにどれだけ気を使ってると思ってるんだか。
「努力はします」
ちょっと不安になる返事にため息をつく。そんな話をしていればライの姿が見えた。
『……それじゃ行くわ。貴方も気をつけて帰って』
「ええ」
会場を出ると風が少し冷たい。時間が遅いせいもあるだろうけど、1番は濡れているせいか。
ライに促されて車に乗り込む。強くなるタバコの匂い。
「……いつものところでいいのか?」
『大丈夫よ……そんなに距離ないから』
本当にまずそうならウォッカに連絡しよう。彼の今日の任務は終わってるはず。
「……なぜ本当のことを言わなかった」
『なんのこと?』
「昨日の報告だ。全部見ていたんだろう?」
スコッチが自殺したということか。報告では"ライが始末した"となっている。
『別に……貴方だって私が何も言わないこと見越して、あの報告上げたんじゃないの?』
「否定はしないが、本当に何もないのか?」
『……バーボンに知られるとよくないでしょ』
そう答えれば車内は沈黙した。
引き金を引いた原因がバーボンの足音だとわかれば、きっと……。
『だからいいのよ……貴方が黙ってれば。バーボンが何か言うこともないだろうし』
彼はあの場にいていい人間ではなかったのだから。彼ほどの男なら自分から墓穴を掘るようなマネはしないだろう。
『ねえ、ライ』
「ん?」
『貴方のこと信じていいのよね?』
「……ああ」
『そう……よかった』
車が止まった。降りようとすればライに手を掴まれる。
『どうしたの?』
「……いや、すまない」
手が離れていく。彼らしくなくて首を傾げたけど、気にしない方がいいだろう。
『あ、そうだ。もう少しバーボンとうまくやってくれないかな?できるだけ組ませないように言っとくけど……』
「……努力はしよう」
揃いも揃って同じ答えか……なんだかんだ似てるよな。
『それじゃ、ありがと。気をつけて』
車が走り去るのを見送ったところで気づく。ライのジャケット羽織ったままだ……少し濡れてしまってるだろうし綺麗にしてから返そう。
そう思ってアジトまでの道を急いだ。