第19章 アンバランス
結局5分経っても現れず。仕方なくライと2人で会場内を見回る。
「……あれじゃないか?」
ライが顎で示す先に……確かにバーボンの姿。なるほど、ナンパされてるのか。腕に擦り寄っている女性をら振り払う素振りは見せないが。
「ですから、連れがいるんです。お誘いは嬉しいですが、お受けできません」
「えー、いいじゃん。一緒に来てよ!」
その女性の後ろには護衛らしき男が2人……どこかで見た顔だ。
『何してるの。さっさと帰るわよ』
声をかけると一斉に視線が向けられる。その瞬間護衛の顔から血の気が引いた。どこかの組織のヤツらだろうか……いまいちピンとこない。
「ええ……迎えが来たので離していただけますか?」
女性にギロっと睨まれる。そして離すどころか更に距離を詰めた。
「じゃあ、連絡先教えてよ!あと名前も!」
バーボンから目を向けられるけど、小さく首を振る。どこの者かもわからないヤツに何を迷っているのか。
『その手離してもらえる?』
「アンタに指図される意味がわからないんだけど」
『指図も何も……彼は私の連れなんだから』
「ムカつく……アンタみたいなお高くとまってる女嫌いなのよね!」
お高くとまってるのはどっちよ……なんて言葉は飲み込む。護衛の2人は慌てたように女性に話しかける。
「お、お嬢様、その辺で……」
「うるさいわね!私に指図するの?!」
「いえ、そんなつもりは……しかし、この方は……」
『令嬢なら、それ相応の振る舞いを学んだら?』
「っ……うるさい!!」
バシャッ
女性は近くのテーブルにあったグラスを掴み、何かと思えばそれを私の顔にかけてきた。匂いはしない……水か。
「あはは!ざまあみなさい!!」
『……気は済んだかしら』
前髪から垂れる雫を見て言う。せっかくベルモットが綺麗にセットしてくれたのに……。
「は?」
怒るとでも思っていたのか、間抜けな顔の女性。護衛の2人はついに震え出す。
「さすがにここまでされると……貴女のような女性には微塵も魅力を感じませんので」
バーボンの顔は口角こそ上がっているけど、目はとても冷たい。
「一体何の騒ぎ……な、な、お前!なんてことを!!」
そこにやってきた恰幅のいい男。その姿を見て思い出した。
「こいつ、あの時の……」
ライと一緒に取引をした……あの薬を盛ってきた男だ。