第17章 制裁
「彼とは仲が良かったでしょう。貴方は……何も思わないんですか?」
『……嫌いじゃなかったわよ』
「それでも見逃さなかったと」
『当たり前でしょ?裏切り者に情けをかけろって言うの?』
冗談じゃないと笑うその顔は少しひきつってるように見える。
そこで電話がなる音。マティーニは携帯を取り出し話し始める。1分にも満たない会話だったがそれを聞く気にはならなかった。
それが終わってマティーニはこちらに歩み寄ってくる。そして、スコッチの頬に触れた。
『スコッチ……唯の方がいいかしら。どちらも本当の貴方ではないんだろうけど……もっと違うかたちで会いたかったわ』
そう言ってスコッチの額に軽く口付けをした。その様子を呆然と見ることしかできない。
『……もうすぐ後始末の人たちが来るわ。その顔どうにかしてからおりてらっしゃい。いつもの所まで送るから』
「……ええ」
断ることはしなかった。マティーニは先におりていく。姿が見えなくなったのを確認して、スコッチの胸元から携帯を抜き取った。
すまない、ヒロ……死なせるわけない、なんて言ったのに。こんな終わり方が待っているなんて、自身の甘さを感じざるを得ない。
絶対に全てを暴いてやる。お前を死に追い込んだ奴らのことを。
「……じゃあな」
そう言ってその場を後にした。
マティーニの車を確認して乗り込んだ。聞きたいことはたくさんあるのに、何も言い出せなかった。マティーニの纏う雰囲気がとても悲しそうだったから。
しばらくして目的地につく。車から降りて声をかけるために運転席側へ回る。
『……貴方のこと信じていいのよね?』
こちらより先にかけられた言葉。
「もちろんです」
『そう……本当なら貴方があの場にいたことも報告しないといけないんだけど……』
その言葉に違和感を覚える。
「……報告しないんですか?」
『今回だけ見逃してあげるわ……大切な人を失う辛さは知っているつもりだから』
そう言って車は走り去っていった。
「貴女は……どうしてここにいるんですか」
彼女のひきつった顔とあの雰囲気は……ヒロの死を悲しんでいるように見えた。
時折見せる亜夜の姿はどう見てもこの組織には似合わない。
彼女のことを知りたい。もちろん調査の為……その裏に絶対に抱かないと思っていた感情が湧いていた。