第17章 制裁
亜夜side―
バーボンを送り届けてからあてもなく車を走らせる。自分で思っていたよりスコッチが死んでしまったダメージは大きかった。
スコッチの頬に触れた感触……ほんの僅かな温かさはきっと忘れないだろう。
『……何も思わないわけないじゃない』
ライにもバーボンにも同じことを聞かれ、同じ答えを返した。本当の思いを零してしまったら、私だって生きていられるかわからないのだから。
スコッチの笑った顔が好きだった……どうしてこんなに大事な人になっちゃったんだろう。冷たい言葉を吐くのは苦しくて仕方なかった……もう誰かを失うのは嫌。
でも、あの感覚は消えない。会った時には感じたし、スコッチに対しても同じものがあった。それが正しいなら……ライもバーボンもNOC。
だけど、証拠が何もない。その感覚だけで始末する勇気なんてない。
今は……2人の言葉を信じるしかない。
『……本当に良かったのかな』
先程のベルモットから電話。ライから上げられた報告は"スコッチは俺が殺した"というもの。本当は……スコッチは自殺したのに。それを否定する気はなかった。どうしてかなんてわからない。
『……海』
いつの間にか海岸沿いを走っていた。車を止めて外へ出る。肌に当たる風は少し冷たい。
―今度海行かないか?
いつかの任務終わりにスコッチが言っていた気がする。それはもう叶わない。
涙が頬をつたった。どんどん溢れてくるそれを拭う気にもならない。
どこで間違えちゃったんだろう……どうして信じちゃったんだろう……。
どうにもならない後悔が押し寄せる。
そこで鳴る電話。番号を確認しないで出た。声だけ震えないように気をつけながら。
『……もしもし』
「どこにいる」
ジンの声。それに安心してしまう自分。
『ちょっと息抜き……休む暇なかったから』
「帰ってくるよな?」
『……今日呼ばれてないと思うんだけど』
「てめぇの部屋にいる」
『わかった……今から帰るから』
電話を切って海に向き合う。流れていた涙を止めるように何度か拭った。強めにしたせいでちょっとヒリヒリする。少し腫れてるかも……。
『さよなら……唯。本当に楽しかったよ。次は……本当の貴方を知りたいわ』
別れの言葉くらい許されるよね……最後に零れた涙を拭って車に乗り込んだ。