第17章 制裁
階段を下りきったところにいたマティーニ。その背にはライフルのバッグ。
「なぜここにいる」
『貴方がヘマしないように見てたのよ……しくじるようならまとめて殺れってね』
微笑んだマティーニの言葉に何も言えなかった。ここに来てしまった時点で、スコッチが生きて帰ることなど有り得なかった。彼が自決しなければ……俺まで死んでいたのか。
「いつから……」
『貴方達が来る前から』
だから場所の指定があったのだろうか。普段ならそのくらい気づけたはずなのに……。
『何を話していたの?』
「……情報を聞き出そうと思ってな」
『1回、彼の自殺を止めた理由は?』
「それも同じだ」
スコッチに名を明かしたのにそれについて触れることはなかった。つまり、盗聴されている可能性はない。
『それ信じていいのよね?』
「……ああ」
『そう』
表情こそ変わらないが纏う雰囲気はなぜか悲しそうで。
「お前は何も思わないのか……彼とは仲が良かっただろう?」
『そうね……嫌いじゃなかったわ』
そう言ってマティーニは階段を上がっていこうとする。
「何をしに行く」
『一応確認してこようと思って』
その声は微かに震えていた。
「お前……」
『……本当に貴方のこと信じていいのよね』
「もちろん」
言葉に返事はなく、彼女は上へ向かった。
「……なぜお前はこの組織にいる」
纏っていた雰囲気と震えている声に、ずっと考えていたことが無意識に漏れた。
共に行動する回数が増えるごとにその疑問は大きくなっていった。マティーニでいる時と黒羽亜夜でいる時……ここまで変わるものだろうか。
初対面こそ印象が悪かったものの今は……あの4人でいたことが楽しかったなんて思う自分がいる。ふとした瞬間気が抜けていたり……それほど亜夜に対しての警戒心が鈍っていた。あの日々が来ることはもうないのだ。その事実に異様な喪失感に包まれる。
……お前を誰よりも先に見つけられていたら、何かが変わっただろうか。
同時に2人の女を愛せないなんて言っておきながら、明美だけでなく亜夜にも特別な感情が湧いていることに気づいた。
この先……きっと俺は彼女を殺すことができない。その存在が悪であっても。
ため息をついてその場を去る。
……自ら潜入を志願したくせになんてザマだ。