第16章 再度4人……
「……そうしましょうか」
「ん?何の話?」
『勝負しないかって……私はいいから3人でやって』
「それじゃダーツやろう。ちょうど空いたみたいだし」
唯の提案で3人はそちらへ行った。私は後ろ姿を見送ってカウンターへ向き直る。モヒートのグラスは空になったし、次は……
『……マティーニ1つ』
自分の名前なのに飲んだことないな……なんて思いながら。目の前に置かれたマティーニ。ベルモットとジンのカクテル。口をつけると爽やかなのに苦味が強くて……所謂大人の味。私、自分の名前に釣り合ってるのかな。
「なんだ、共食いか?」
『……飲んだことなかったのよ』
1人先に唯が戻ってきた。共食いって……まあ違くもないけど。
『もう終わったの?』
「いや……あの2人が白熱しすぎて」
唯は結構自信あったんだけどな……と肩をすくめる。透も大もこんなとこまで張り合わなくてもいいのに……。
「お前って変わってるよな」
『急になに?』
「なんつーか……他の奴らとは違うっていうか……」
『……そうかしら』
「あ、悪い意味じゃないんだ。ただ組織の人間っぽくないなって」
『貴方の方がそうだと思うけど』
唯の目を見て言った。曇りのないまっすぐな目を。
『まあ……ここまで色々知っちゃったら逃げられないわ』
「……そんな気はないさ」
今までにも組織から逃げ出そうとする者はいた。皆呆気なく殺されたが。たとえ末端で持っている情報が少なくても、それは裏切りに値する。
『裏切りには制裁をもって答える……だから、死にたくなければ、馬鹿なこと考えちゃ駄目よ』
残ったマティーニを流し込んで席を離れる。唯は少し呆けたような顔をしてついてきた。なんて顔してるんだか……。
『いつまでやってるの』
透と大がダーツの勝負を始めてそれなりに時間が経つが……まだ決着がつかないのだろうか。
『何を賭けてるのか知らないけど、そろそろ戻るよ』
「すみません、もう少しだけ……」
矢の刺さっている場所は悪くないが……大の方が少し点数が上か。
それを横目に見ながら、一つ空いているダーツボードの前に立った。
「できるのか?」
『それなりにね』
そう言って続けざまに3本矢を投げた。久々だが腕は落ちてないみたい。全てダブルブルに刺さった。
「すげえ……」
唖然とした唯の声に思わず笑いが漏れた。