第15章 弁解と命令※
駐車場へ行けばタイミングよく滑り込んでくる車。ライの姿を確認し歩み寄った。同じくしてライも車から降りてくる。
「手を怪我している。応急処置はしたが後でちゃんと診てもらってくれ」
薬を盛られた上に怪我……ライに理由を聞こうとしたが変にはぐらかされる気がした。
「……ウォッカが来たら取引した物を渡せ」
本来ならマティーニがアジトまで持ち帰る予定だったがこうなっては仕方がない。その旨はウォッカに連絡済みだ。
助手席側のドアを勢いよく開ければマティーニの姿。
『ジン……』
息は荒く声も掠れていた。うっすら開かれた目には驚きの色。何か言いたげな顔をしたがその前に横抱きにした。
『ひあっ……』
触れた手に漏れた声。身体は熱を持ち顔は赤い。これをライは見たのか……その事実に更に怒りが湧く。
「詳しいことはそいつに聞いてくれ」
ライの言葉に何も言わず横を通り過ぎた。
ギュッと目を瞑ったマティーニ。身体は小さく震えている。片手にはきれいに巻かれた包帯。胸のざわめきと奥で燻る欲。こいつを抱きたくて仕方ない。その思いをどうにか押し込める。聞かなきゃならねえことがたくさんあるから。
部屋についてマティーニはベッドへ投げた。その上に覆いかぶさる。
「説明しろ」
そう言っても目は虚ろで、聞こえているのかわからない。かと思えばゆっくり首の後ろに腕が回され、弱い力で引き寄せられる。
『気持ちよくなりたい』
その言葉はどうにか押し込めた欲を簡単に解き放つ。呆れて舌打ちをした。
荒い息を繰り返す口を塞げばすぐさま舌が絡められる。身体を撫でれば過剰に反応を見せる。
「……お前には適わねえな」
傷つけないように離し、気持ちが湧かないよう会話もせず過ごした時間。やっとの思いでそこまでしたのに一瞬で意味をなくした。もう俺から離れることはない。きっとマティーニ……亜夜に全て奪われたままだろう。
今まで溜め込まれた欲は何度絶頂を迎えてもまだおさまらない。こいつも同じ様で……むしろ薬を盛られてよかったんじゃないかとすら思う。もう既に何度か意識は飛んでるようだが、それに構ってられるほど自分に余裕はない。
腹に残った傷跡が目に入り、色白い肌に醜く残ったそれを撫でる。
できることならそばに置いておきたい。でもまた傷つけたら……
『っあ……ジンっ……好き……』