第15章 弁解と命令※
ジンside―
マティーニと会わなくなってどれだけ経つだろう。アジト内ですれ違うことはあったが、こちらから声をかけることはなかった。
自分から突き放した癖にふとした瞬間、あいつの事が頭をよぎる。あいつが死ぬ夢こそ見なくなったものの、今度は別れ際のあの顔が離れない。
「こう言っちゃなんですが……兄貴、最近変ですぜ」
ウォッカにそう言われ、言い返せない自分に心底呆れた。
マティーニを傷つけたくなくて、あんな怪我を負わせたくなくて、その思いから離したはずなのに、ダメージか大きいのは自分で。あいつがいないとどうも調子が狂う。
「あの子にもハニトラの任務やらせるから」
ベルモットがわざわざ報告に来た。あいつが他の男に抱かれるなんて反吐が出そうだった。相手にしたヤツら全員殺して回りたいほどに。しかし、それを止める権利は俺にはない。
「……好きにしろ」
そう言えばベルモットは呆れたようにため息をついて去っていった。
あいつが他の男に抱かれるなら……他の女を抱いたって問題ねえよな。
こじつけの理由で他の組織から女を借りて抱いた。マティーニと会う前にもそうやっていたのに……何人相手にしても1、2回欲を吐き出すのが限界だった。満たそうとすればするほど穴は大きくなっていく。
心も身体もあいつに依存していることにやっと気づいた。だが、あんな突き放し方をして今更……。
ホテルの部屋でタバコをふかしていると電話がきた……妙な胸騒ぎがする。通話状態にするがこちらからは何も言わない。
「ジンか?俺だ。すまないがマティーニを引き取ってもらいたい」
ライの声にスマホを握る手に力が入る。何よりマティーニを引き取るとは……。
「……他のヤツに言え」
そう言い切ろうとする、が。
「薬を盛られてな。だいぶ仕上がってるが……」
その言葉に尋常じゃない殺意が湧く。
「てめぇ何もしてねえだろうな」
「あまりにも苦しそうだったから少し味見したがな」
電話じゃなきゃ……直接会って言われていたらライの頭を撃ち抜いていたかもしれない。
数秒の沈黙の間考える。ホテルは近いうちに変える予定だった。それなら知られても構わないか……そう思いホテルの場所を伝え電話を切った。
灰皿へタバコを乱暴に押し付ける。
自分の矛盾した言動にため息をついて部屋を出た。